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30 Swan Song

mission 30 【白鳥の歌】

「…さ…少佐!」
誰かに肩を揺すられている。
気がつくとNATO本部の駐車場で、自分の車の中、座席はリクライニングシートが倒され、そこに寝かされていた。
声をかけてきたのはAだった。テロリストを警察に引き渡し、煩雑な手続きをすませ、ついでに単独(?)行動でたっぷりと部長に嫌みを言われ、報告書を山ほど書かされる羽目になり、一睡もしていないAが早めの帰宅をしようと駐車場へとむかった所で少佐の車を見つけたのだ。
「くそ!!!!」
「す、すみません!!!!」
思わず自分自身に悪態をついたつもりだったのだが、なぜかAが反射的に謝ってきた。
「貴様何かしたのか?」
「え?あ?いいえ……つい反射で」
情けなくなった。こいつをこんなにしたのはもしかして自分か?頭を抱えたくなった。しかし気を取り直して聞いた。
「とにかく報告しろ。オフィスに戻るぞ」
「え、ぁ、あの僕はこれから帰ろうかと……」
「長い一日になりそうだな」
Aが泣き笑いのような顔をして着いてきた。


結局俺に出来たことはあったのか?
ヒプノスの手の上で踊らされていただけのような気がする。
驚くことに、今回の騒動は何一つマスコミに報道されることはなく、何もなかったかのような日常が戻ってきた。
仮想世界は特許に守られ、一部の特権階級が利用する病院でのみ使用されているようだ。
そのほかにはホスピスなどで死の間際、一番元気だった姿で家族と別れを告げることのできるサービスとして利用されている。家族と別れたくないとごねる者も少なくはないらしいが、使用期限が限られているので問題になることはないようだ。
ある日、手紙が届いた。メールではなく、すかし入りの紙に手書きの古風なやつだ。
少佐はその手紙に指定された墓地へとむかった。
その墓地では、墓参してきた家族が、生前にデータを記録していた亡くなった者と会話が出来るという。
受付で指定された部屋に入る。そこから仮想世界に入るつもりだった。しかし係員の代わりに入室してきたのはタナトス本人だった。
「あなたにちゃんとお礼を言っていなかったでしょう」
最後にあった時より、さらに痩せたようだ。紙のように白い顔。だがその表情は穏やかだ。
「俺は何にも出来なかった」少佐がそう言うと、タナトスは微笑みながら首を横に振った。
「あなたを仮想世界に呼んだのは、私一人ではヒプノスを説得できないからでした。また、現実世界での交渉をやってくれる人が欲しかったからです。貴方はそれ以上のことをしてくれた。
あなたのおかげで伯爵は単なるプログラム以上の存在となった。V.I.たちを変えることができれば、この仮想世界を守ることは今よりもっとやりやすくなるはずです」
そういうとそっと手を差し出してきた。
細い手首が痛々しいが、握り返す力は決して弱くなかった。
「本当はこんなやつれた姿をさらす気はなかったのですが
……でも私は最後に現実の貴方と会いたかった。
いつかもう一度私に会いに来てください。……最後のお別れに」
少佐は応える代わりに、ぎゅっとその手をにぎり返した。

The End

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