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29 Return to Forever

mission 29 【永劫回帰】

いきなり光りに包まれ、重力を感じる。
下を見ると森が見える、このまま落ちれば地面にたたきつけられるか、あるいは木の上に落ちれば……
為すすべもなくぎゅっと目をつぶる。
しかし衝撃はいつまで経っても来なかった。かわりにちかちかと点滅する光りに包まれ、再び意識を失った。

「少佐」
目が覚めると目の前にはAとカーンがいた。そしてその奥にいる男は……
「お前は……タナトスか?」
「はじめまして、ですね。この世界では」
だが、仮想世界の彼と、現実の彼とは明らかな差があった。
やせて、顔色が悪い。
「どこか、悪いのか……それも、かなり?」
タナトスはうっすらと笑って答えた。
「ええ。ですからヒプノスは急いでいたのです。


いつの間にか空がうっすらと明るくなってきている。
Aは伯爵の情報をもとに、逃げたテロリスト達を追跡していた。先ほど入った連絡によると、彼らは全員確保されたらしい。何しろ彼らの行く先々で信号は赤になり、車を降りれば警報が鳴り出し、エレベーターに乗れば閉じこめられると、さんざんな目にあったらしい。Aはラッキーだったくらいにしか思っていないようだが、事情を察したタナトスは複雑な顔をしていた。

タナトスに案内され、屋敷の奥の部屋に入ると、そこにもモニター機器やダイブのための装置が完備されていた。
ただ、その他にも医療機器とおぼしきものや点滴のポールなどが置いてある。
あまり調子の良くなさそうなタナトスは、少佐の薦めでベッドに横になりながら話をすることにした。
「そろそろ話してくれるだろう?ヒプノスがこの計画を進めたのは、お前さんのためだったんだな」
「そうです。お察しの通り、私は健康を害しています。――癌を患っていますが、手術の難しい場所に出来ているので、私は手術をせずに成り行きに任せることを希望しました。私自身はもうすっかり心の準備は出来ているつもりでした」
「だが、ヒプノスは違った」
「そうです。小さな弟を亡くした時、彼の落胆は大きなものでした。その上私までも失うと言うことが、彼には耐え難いことだったのでしょう」
タナトスはそう言いながら、ダイブの機械を指さした。
「ダイブをして仮死状態になっている時、癌の進行は遅くなります。そして仮想世界での私の行動は、病に影響することなく動ける」
「お前のために仮想世界を維持したかったのか」
「そうです。だがもし私ひとりのためでしたら、彼を止めようとしたでしょう。しかし、ここであなたがごらんになったように大勢の傷ついた人々がいる。彼らに傷ついた体で短い人生を全うしろと言えなかった」
「そうか……」
外では夜が明け、鳥のさえずりが聞こえる。部屋のブラインドを通して、朝日が差し込んできた。
仮想世界はその規模を縮小し、この件は一応の終結を向かえるだろう。俺の任務は終わる。ヒプノス達の処遇については、何も命令を受けていない。おそらく上からは何もするなと言われるであろう事は想像に難くない。

「お前は……お前達はこれからどうする?」
その時ドアを開けて誰かが入ってきた。
「私たちはまた移動します」
「ヒプノス!」
ヒプノスは部屋に入ると、そっとタナトスを抱擁した。そして少佐に向き合うと、深々と頭を下げた。
「あなたには色々済まないことをしました」
「よしてくれ、俺はただ任務のために動いただけだ」
今まで感じていたうさんくささものかけらもない、真摯な態度に少佐はかえって戸惑う。
「お前達は……保険がある、もう逃げ回る必要は……」
「ありますよ。現に昨日は襲撃された」
「そうだな」少なくとも俺たちよりこいつらの方が姿をくらます能力は上回っている、タナトスが無事な間は少なくとも問題は起こさないだろう。
だが……その後は?いや、今や仮想世界はタナトスのものだけではない。多くの傷ついた者達がいる。投げ出すことはできないだろう。仮想世界はヒプノスにとって、タナトスを行かす場所だった。だがもしかしたらタナトスにとっては、ヒプノスが生きていくために必要な場所にしたかったのかもしれない。
人の命に関しては、様々な考え方があるだろう。何が正しいのか、おそらく永遠に答えは出ないだろう。
だが、それでいい。奴らは奴らの人生がある。俺はまた俺の世界で生きるのみだ。

「どこに行くかなんて野暮は言わないが、たまには無事を知らせてくれ」
「ええ。たまにといわずいつでも」
「何だって?」
ヒプノスはにっこり笑うと、一枚のディスクを手渡した。
「ダイブポイントは殆ど閉鎖しました。そのうえ特別なコードがなければダイブ出来ないように設定しました。コードはランダムに毎日変わります。このディスクはあなた専用のコードを発行して、いつでもダイブできるようにするためのソフトが入っています」
「相変わらず用意周到なやつだ」
腕を伸ばしてディスクを受け取ろうとしたその時、その腕に何かちくりとした痛みが走った。
「な……??」
やられた。薄れていく意識のなか、注射器をもったヒプノスの済まなさそうな顔を見たのが最後だった。

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