« 27 perpetual darkness | トップページ | 29 Return to Forever »

28 multiplex eyes

mission 28 【多重視野】

私という存在は何だろう?
時間や空間、感覚といった物が、一切排除されてなお意識は存在する。
一体何のために?

その時何かがそっと自分の意識に触れたような気がした。
「……さない…で」
少佐は微かに流れ込む意識に集中しようとした。
「意識を…集中して」
そのとたん、頭の中をまるで洪水のようにありとあらゆる情報が押し寄せてきた。目を開けていないが自分の廻り全てが見える。まるで雲霞のうなりのようにつぶやきが聞こえる。ここにいながら全てに自分が存在するようだ。
膨大な量の情報が、激流のように少佐を翻弄する。この中でどれが自分の意識なのかが分からなくなってくる。このまま飲まれてしまうのか?
「少佐!」
ほんのわずかなきらめきのようなものこれは誰かの意識か?俺はこれを知っている。必死でその方向へと手を伸ばす。
ふと、何かがこの手に触れたような黄がした。そしてその手が思い切り少佐の腕を掴み引き寄せられた。

まるで何かの幕を通り抜けたかのように、気がつくと少佐は森の中に立っていた。
これは子供の頃よく一人で遊んだ森だ。執事の目を逃れ、ここでよく昼寝をした。木漏れ日が暖かく、母のぬくもりとはこんなものかもしれないと思った。そっと暖めてはくれるが、すぐにするりと行ってしまう。体をずらして日を追い掛けてもすぐにいなくなる。
その時、再び声がした。
「少佐、良かった、やっと君を見つけられた」
「伯爵?その声は伯爵なのか?」
しかしどこを見渡しても、伯爵の姿はない。声も、自分の頭の中からしてくるようだ。
「ごめんよ、ここで僕の姿を視覚化するのは難しいんだ。今、僕は仮想世界のありとあらゆる場所に意識をのばして君を捜し出した。そして君の頭の中にある、安らげる場所のイメージを具現化してみたんだ。やっと捕まえた君の意識をとどめておくために、この空間を作ったんだ」
抑揚の無い声だが、確かに伯爵だ。
「生きていたんだな……そして助けてくれた」
「ああ、〈生きて〉いるかというところは微妙だけど、とにかく存在はしている。でも礼を言うのはまだ早いよ。今はここに結界のようなものを作って君を保護しているけれど、出口を捜さなきゃいけない」
結界、つまり俺はまだあの訳の分からない場所に閉じこめられたままなのだな。
「さっき俺のいたあの場所は何なんだ?」
「これがデータである「僕」のいる世界だ。純粋な情報の世界」
「そうか……」
先ほどの自分がどこまでも広がったような感覚、ほんの一瞬だったが、あれが今の伯爵の感じている世界か。
全視野とでもいうのか、全てが見えるが人間の自分ではその情報を処理する能力はない。
「いいや、君はまだ自分が〈人間〉であるという概念にとらわれているから、理解しようとしていないんだよ」
自分の考えを読んだかのように(実際読んでいるのかもしれない)、伯爵が言った。
「このままここに留まるという選択枝もある」
「なんだって?」
「肉体という枷を外れ、君の思考はどこまでも広がることが出来る。ネットワークを通してあらゆる事を見、聞き、そして知ることが出来る。――もちろん僕が君を導く」
信じられなかった。一体どんな顔で言っているんだろう?
「ふざけるな!!ここに貴様がいたら胸ぐら掴んでぶん殴る所だぞ!!」
暫くの沈黙の後、再び伯爵の声がした。
「よかった。君ならそう言うと思った。君の魅力は〈リアルさ〉だからね」
声は単調だが、どこかおもしろがっているような気がした。
「ここから君を君が今までいた仮想現実空間へもどす。それから君をタナトスが呼び戻してくれるはずだ」
「すまん」
「それから、今の僕はあらゆる情報に通じることが出来る。君をこんな所に飛ばした奴らは、もうすぐ突き止められる。誰も僕からは逃れられない」
「礼を言う。しかし……」もしかして俺は今とんでもなく危険な存在を目の当たりにしているのかもしれない。
「ああ、君の考えている事分かるよ。安心して良い。僕は神になることはないよ。ただ、オリジナルの影響さ」
そういえばあいつも人のこと出刃ガメしやがったことがあるな……たしかにあいつはどんなに高級なおもちゃをあたえても、自分のやり方でしか遊ばないやつだ。いい加減なやつだがこんなところで役に立つとはな。

ふと森の奥から伯爵の呼び声が聞こえた。
もちろん姿は見えない。
近寄ろうと歩を進めようとするが、なぜだか行きたくない。
しかし再び呼び声が聞こえる。
ゆっくりと近づいていく。
その時、空から巨大な手が現れ、少佐を掴むともろともに上空へと消えていった。


|

« 27 perpetual darkness | トップページ | 29 Return to Forever »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21723/15989177

この記事へのトラックバック一覧です: 28 multiplex eyes:

« 27 perpetual darkness | トップページ | 29 Return to Forever »