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26 Project Thanatos 2

mission 26 【プロジェクト・タナトス 2】

「これが…タナトスプロジェクト?」
タナトスに案内されて部屋に入るなり、Aは言葉を失った。
奥行きのある部屋には、所狭しとベッドが並び、その上にはシーツに隠れているが、明らかに人の形があった。
そして何本ものチューブやケーブルがその人たちから繋がり、床に無数の蛇のようにのたうっている。
「病院なのか、ここは?
なんで…うっ!」
カーンがおそるおそる一番近くのベッドに近寄り、覗き込むなり短い叫びをあげて後ろに飛び退った。
「こ、こいつらは生きているのか?」
カーンが思わずAの後ろに回り、肩口にしがみつく。
何をそんなに驚いているのかと、Aも同じように覗き込んだ。
カーンの驚きから、ある程度の覚悟はできていたのだが、それでも息をのむ。
無言でタナトスの方を向き、もの問いたげな目を向けると、タナトスはわかっていると言った様子でかるく頷いた。
「ええ。彼らは皆生きています。そしてあの仮想世界の住人のかなりの部分を占めているのです」
そういいながらタナトスはベッドの間を縫うようにゆっくりと歩き、時々シーツをめくりあげては横たわる人々の様子を見ている。
そこに横たわる人々は、おそらく軍人であったろう、年齢も様々な男たちだった。
ある者は顔に大きなやけどの跡があり、ある者は身体の一部が欠損している。
「私が死の神と言われる所以は、もうお分かりでしょう。
ここにいる軍人の大半は記録上「死亡」している者たちです。
もともとここは、機密作戦で負傷した者たちを、治療する病院だったのです。
意識の戻らない負傷者から、作戦の様子を聞き出せないか……要は意識があれば良い。
そこで仮想世界でなんとか彼らの意識をとらえようとしたのが、このプロジェクトの始まりです」
「彼らはじゃあ意識が戻らないままなんですか?」
Aの問いかけにタナトスはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、大半はある程度治癒されれば目覚めるはずでした。ある者は目覚めぬまま、数日から数ヶ月で息を引き取ります。だがある者は意識が回復した後に、再び仮想世界へ戻る事を希望したのです」
なぜと問いかけようとして、Aは横たわる人々を再び見つめ、思い当たった。
「もしかして、仮想世界では彼らは健康な生活を営めていたのではないですか」
Aのその言葉に、カーンも遅まきながら気がついた。
「仮想世界では、そこで傷ついた場合には、現実世界でも影響があるのですが、実はその逆は全く違います。
仮想世界へとダイブする時、身体特徴についてはすべて健康な状態で再現されます。後天的要素を加えるよりもその方が容易いと言うのが理由ですが、身体が不自由になった者にとっては、失った物を再び手に入れる事のできる唯一無二の場所となったのです」
そうか、ここでしか生きられない者たちだからこそ、レジスタンスになったのだ。(もっとも彼らはヒプノスたちに逆らう危険性については、全く考えが及んでなかったのだ)
「そうした者たちを、現実世界へと戻すのは簡単でしたが、私もヒプノスも不確定要素がこの世界に与える影響を知りたかった。すべてを排除して不毛の世界にしてしまうより、時間をかけて王国を築きたかったのです」
「だが軍はこの世界をあなたたちのものにしておく気はなかった」
Aは仮想世界で出会った人々の事を考えた。研究者たちの思惑と、軍の考え方は全く違っていた。
それはこの世界を翼とするか、檻とするかというほどの隔たりだ。
「しかし私達の力だけでは、到底軍に太刀打ちはできません。いろいろと協力者を捜しているうちに、データベースから理想の人物を見つけたのです」
「それは……少佐の事ですか?」
「ええ。彼の実績を見ていると、柔軟性や臨機応変な対応が抜きん出ているだけでなく……」
そこでタナトスが意外にもうっすらと微笑んでいる。
「彼の周りによく現れる謎の人物、マイナス要素としか思えない者をも排除する打でなく協力させる度量の大きさはとても興味深かった」
謎の人物とは言われるまでもなく伯爵の事だろう。たしかに少佐は伯爵を嫌っている事は確かだが、他の者に対してときに少佐が行う非情な手段を伯爵にはとらない。
これを友情や愛と言ったら、間違いなく僕はアラスカ送りだな……Aは少佐の激怒した顔を想像して、思わず首をすくめてしまう。
そこでタナトスはふと腕時計に目をやり、言った。
「そろそろその少佐が、こちらに来ている時間です。今ここの敷地内にある別のポイントで仮想世界にダイブして、ヒプノスと会っている頃でしょう。会見はそんなに長くはかからないと思います。別の部屋で彼が戻ってくるのを待ち、これからの事を話し合いたいと思います。
この重苦しい雰囲気の漂う部屋に長居をしたくないAとカーンは、思わずほっとした顔をしてタナトスの後に続き部屋を出た。

その時、廊下の向こうからビープ音の様なものが聞こえてきた。
それを聞きタナトスはその音のする部屋に向かって走り出した。
「たいへんだ、誰かが外部から侵入したようです!
もしここのコンピューターが損傷を受ければ、少佐が危ない!」
窓の外からかすかに爆発音が聞こえた。
「外にケーブルが埋まってないか?」
カーンがタナトスに追いついて聞いた。
「ええ。奥庭にあるダイブポイントとこちらのコンピューターをつないでいます。
まさかそれを爆破したと?」
「内部に侵入できなければ、外的攻撃が手っ取り早いからだ
僕はそっちの爆発音の元を調べる、そっちは頼む!」
カーンはきびすを返し外へと走り出していった。
Aがとタナトスがその音の鳴る部屋に飛び込み、タナトスは端末に素早くコードを叩き込む。
「仮想世界のどこにも少佐は存在しません。
無事にこちらに戻ってきているのでなければ……」
そういってAの方を振り向いたその顔は蒼白だった。
「少佐は仮想世界とこちらの世界の狭間で、なす術もなく漂っているかもしれません」

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