« 22 A Real World | トップページ | 24 In this tomb by the river »

23 In this kingdom by the river 1

mission 23 【河の畔の王国で】

仮想空間での国際会議が中止となり、Aたちはいったん解散させられた。
しかしまだ少佐の行方がわからない。捜査を続行しようとするAに対して、部長は珍しく強硬な態度で、帰宅を命じた。
「今の君に必要なのは、十分な睡眠だ。もし承伏しないのならば、薬を使ってでも休ませるぞ」
脅しではないとばかりに、部長の後ろにはドクターと看護士が控えている。手には注射器。
降参のしるしに軽く両腕をあげて言った。
「わかりました。でも、明日は定時に来ますよ」
「うむ」

Aが帰りはUバーンを使って帰ろうと、駅に向かって歩き出した時、後ろからカーンが声をかけてきた。
「家まで送りますよ」車の鍵をぶんぶんと振り回すカーンの左手には、不自然なほどの荷物。
どうやらカーンはウィンクしているつもりらしい、妙にくしゃくしゃになった顔にむかって、軽く頷く。
カーンの後について駐車場に行くと、そこには見慣れぬ中継車のようなバンが置いてあった。
ドアを開けると車内にはコードが所狭しと床を這い、スチール製の棚にいくつものモニターが並んでいる。
方眉を上げて無言の問いかけをするAに、カーンはしらっとした表情で
「大丈夫。これはプライベートな車です」と言った。
プライベートでこんな車に乗ってる君って……

そんなAの様子をおもしろそうに眺めながらカーンが言った。
「少佐の件はまだ調査中ですが、ちょっとおもしろいことが起こったので知りたいだろうなと思ったんだ」
そう言いながらカーンはキーボードを引っ張り出すと、どこかのアドレスを打ち込んだ。
「今日は次々と接触できるアドレスが接続不可能になっていって、みんなプチパニってたんだけど、やっと落ち着いたみたいだからここは大丈夫。」
それは最初に部長から見せてもらった、仮想世界を見ることの出来る「窓」のようだった。
「全くさ、灯台もと暗しとは日本の人はよく言ったものだよ」
何を言っているのかAにはよくわからないが、とりあえずうなずきながら先を促す。
「ハッカー仲間の間で、話題のサイトがあったんだ。
最初は新しい開発中のネットゲームだとおもった。
ただちっともクールじゃないんだ。萌えな女の子はいないし、派手なアクションで戦えるわけでない。ただリアルなだけ。
仲間は何とかその世界に入ろうと、色々手を尽くしてみたわけ。
ところが全く歯が立たない。でも、そのときゲームマスターを名乗る男から接触があった」
「まさかヒプノス?」
「……と、思うんだ。何しろそう天才は転がってないからね」
悔しいが僕ら十人がかりで彼一人分だよ、とカーンはぶつぶつつぶやいている。
以前はヒプノスを任そうと躍起になってたのに、いまやすっかり彼のシンパか?
「まあそのヒプノスらしき人物が、そいつをゲームに誘ったんだ
みんな夢中になったよ。どこまでリアルな世界を作れるかってね。
そしてこの世界をよりリアルにするためのディスカッションをするためのフォーラムを開いたり、けっこう楽しく遊んでたわけ。
さらにセンスの良い奴なんかは、渓谷とか水辺とか、綺麗な風景をデザインしたり。自慢の世界だったんだ」
話を聞いていくうちに疑問が持ち上がっていく。
「なあカーン、へんじゃないか? この世界の本来の目的はシミュレーションだ。風光明媚な風景は必要ない。別人じゃないのか?」
「そう。そうおもったんだけどね……
ある日……つい最近だけど、彼から連絡があってこのゲームは買い手がついたので、いったん終わらせるって。それで関わってた連中には結構な額のお金が振り込まれた。
それ以来わずかに残った観察ポイントのこしてドロン」
「逃げられちゃったわけ?」
「ばかな!このままではすまないさ。
僕らはアドレスをたどって、その発信場所を突き止めた。
いくつもの国やネットワークを経由して、足跡を消したつもりだったろうけどね。言ったろ、僕ら十人がかりでヒプノス一人分って。
人海戦術でなんとかそれで突き止めた場所が…」
「僕たちの見つけたポイントだった」
「ご名答」
そう言いながらカーンは運転席に乗り込み、エンジンをかけ始めた。
「先ほどからアクセス速度が異常に遅くなってる。サーバーに負荷がかかってるのか、何かが起きてる。間に合うかどうかわからないけど行ってみよう」
「え? 今??」
「そう。何せ見つけたのはちょっと特殊な場所なんだ。こっそり見に行くだけだよ——河の畔の王国へ」


少佐は改めてヒプノスがくれたデータファイルを見ていた。
こうしている間にも次々と仮想世界との接触が途絶えていく。が、これを止められる者はいないだろう。彼に出来るのは、ヒプノスの与えたヒントを読み解くことだけだ。
ヒプノス計画の主要メンバーリストを見ていると、情報部はもとより科学・環境問題局や特別委員会などが関わっている。
ヒプノス計画は軍事目的以外にも使われているんじゃないか、そんな疑問が少佐の頭に浮かんでくる。しかし何のために?
さらに会計報告等を見ていると、生命維持に膨大な金額が費やされている。確かに長い間、人間を機能を損なうことなく眠らせ続けるのは費用がかかる。
よくよく調べると人工呼吸器や人工心肺など延命装置がある。
仮想世界ではそこで起こった事故、けがは現実世界に影響する。
ではその逆は?
少佐はクラークの事を思い出していた。クラークが少佐に「お前も死人か」といった言葉、あれはもしかしたら……
さらに資料の中に外部にわずかながら出資者がいることがわかった。
大手製剤会社から医療機器メーカー、財閥系の企業など。
なぜだろうか、タナトスが関わっているという気がしてならない。
もう一度ヒプノスと話がしたい。

少佐が席を立とうとすると、いつの間にか部長が部屋に入ってくるのが見えた。
「少佐、まさかと思うが、これ以上の単独行動はいかんぞ」
部長はこんな時だけ勘が鋭い。むっつりと黙っていると部長は少佐の肩に手を置き(やめてくれといつもいっているのだが)いつになくまじめな声で言った。
「どうやら君の提示したヒプノスとの交渉案に、難色を示す者たちがいるらしい。最悪何か行動を起こすかもしれんのだ。くれぐれも仮想空間へ戻ろうなどと考えないでくれ」
だがヒプノスと話すには、仮想空間へいかねばならないのだ。
先ほどヒプノスから密かにメールが送られてきた。
「わかりました。今日は帰ります。さすがの俺も疲れましたよ」
まだ疑わしそうな表情の部長を後に残し、少佐は情報部を後にした。

少佐の携帯に送られてきた送り主不明のメール。
ただ座標だけが書かれていた。
どうやらボンの北、ライン川にほど近い場所だ。
そこに行けば何かがわかるのだろうか?
少佐は無言で車を走らせた。

|

« 22 A Real World | トップページ | 24 In this tomb by the river »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21723/13027843

この記事へのトラックバック一覧です: 23 In this kingdom by the river 1:

« 22 A Real World | トップページ | 24 In this tomb by the river »