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22 A Real World

mission 22 【現実】

少佐が目を覚ましたのは、ヒプノスの基地で見た部屋の中だった。
当然ながら隣はもぬけの殻。周りに人の気配もない。
少佐はのろのろと起き出し、自分で装着されているコードや管を引きはがす。
ふと見ると、目の前のかごには着替えとディスク、そして車のキーがおいてあった。さらにご丁寧に今後の指示が書いてある手書きのメモ。(ということはだいぶん前からヒプノスはこれを用意していたと言うことだ)
さすがに用意周到だな。しかし俺が断るとは微塵も思ってないのか……
答えは自分自身よくわかっている。
立ち上がるときに奇妙なめまいを感じる。仮想空間で崩さなかったバランスが、現実世界で崩れるというのもおかしな話だ。しかし歩き出して原因がわかった、足の筋力が衰えているのだ。
考えてみたら数日間寝たきりだったんだよな。しばらくは寝る前のトレーニングの時間をふやさんといかんな。
そんなことを独りごちながら、少佐は車を情報部へと走らせた。

「少佐!!!」
情報部へ着くなり、数人の部下があわてて駆け寄ってくる。
後ろの方でGがそっと涙をぬぐったように見えたのは、気のせいに違いない……。
「よくご無事で! Aは先ほど帰宅しましたが、呼び戻しますか?」Cが気を利かせて聞いてくる。
「いや、いい。それより部長だ」
そういうなり少佐は部長の部屋へと向かった。
ノックの返事を待つのももどかしく、中に入った。
「おお!少佐、無事だったか!」
部長は少佐を見るなり席を立ち駆け寄って、少佐を抱きしめた。しまった。最初の勢いをそがれてしまった。
いつもならば突っぱねることが出来るのだが、今の筋力では思うように腕を伸ばせない。情けない事だが、ここはおとなしく、早く解放されることを祈るのみだ。
やがて、部長も気が済んだのか、少佐の肩をぽんぽんとたたき、少佐を解放した。
自分の席にどっかと腰を下ろし、お気に入りのマグカップから音を立ててコーヒーをすすった。
「君が行方不明になってからの報告は聞いてるかね?」
「いえ、しかし大まかのことは把握しています。この後詳しい報告はさせます」
「では、君がここに来た理由は、報告ではなさそうだな」
「ええ。こうなったらもう、部長にはすべて話してもらいますよ」
そういって両手を机の上につき、部長の顔を正面から見据えた。

「まずはこれをご覧に入れたかったんですよ」
少佐が目覚めた時、傍らにDVDディスクが置いてあった。その中には仮想空間でのスパイたちへの「尋問」の様子が映っていた。
「これが公表されれば、どういう事になるか、わかっておるんだろうな」
部長は映像のさわりの部分を見ただけで、落としてしまった。
その嫌悪にこわばった顔をみれば、部長がこれに関しては全く門外漢だったことが伺える。
「少佐、この件に関しては、恥ずかしい話だが『仮想空間内での心理的影響についての実験』としか報告を受けていなかった。
このH計画については、独自のネットワークでつながっているプロジェクトチームが主導権を握っておったのだ。だが、会議が中止になったとたん、チームが情報部にも事実の報告の上、情報の漏洩を食い止める協力をしろと言ってきた」
そう言いながら部長は数枚のプリントアウトを差し出した。
「なるほど。これで彼らがヒプノスに寝返った理由がわかりましたよ」
少佐は最初の数枚を眺めただけで、その『心理実験』に何も知らず参加させられた情報将校たちの名前を見つけることが出来た。ヒプノスに「寝返った」とされていた者たちだ。
「尋問を受けたのは、なにも敵対するスパイだけではなかったのですね」
「ああ。組織に対しての忠誠を疑われた者、また思想的に問題があると見なされた者を、仮想空間に送り込みテストしていた」
部長はそう言いながらコーヒーにさらに砂糖を2個3個と入れ、苛ただしげにかき回した。
「どんなテストだったかは聞きませんがね、彼らにとってはかなりの苦痛を伴ったでしょうな。
そこをヒプノスが『救った』んじゃないですか?」
「そのとうり。しかもヒプノスはその計画の全容を、将校たちに伝えたに違いない」
忠誠を疑われた者の取る態度は、ほぼ二つに分かれる。
信用を取り戻そうとひたすら努力する者と
自分自身のアイデンティティがゆらいでしまう者だ。
今回の場合は後者が殆どをしめたのだろう。
しかも相手は妙に説得力のある二枚舌野郎だ。
(そう言いつつも、俺もまるめこまれつつあるのだが)
少佐は紙束を机の上に投げ出すと、代わりにもう一枚のディスクを取り出した。
「情報戦ではヒプノスに分があります。いまさら隠蔽することは非現実的です」
「ではどうすればよいのだ? まさか記者会見を開けとでも」
部長は頭を抱え机に突っ伏してしまった。腕の間から上目遣いで少佐を伺う。
たぬきめ、こちらが言い出すのを待ってやがる。少佐はディスクを部長のコンピューターに挿入した。
その中のテキストファイルを起動させながら説明した。
「ヒプノスの提案はこうです。
仮想空間のためのOS・基礎プログラム等についてはそのソースを公開する。その代わりにNATO加盟諸国及び関係諸国代表者による超国家プロジェクトチームを作り、仮想空間内での国際ルールの確立を計ること」
テキストファイルにはプロジェクトチーム候補として、各国の技術者から識者、あらゆる専門分野のリストがあがっていた。
さらに別のファイルには、規定を組むために必要と思われる条項のリストも入っている。
あの野郎は片手で俺たちをひねりつぶそうとしておきながら、もう片方の手ではみんなを守る楯をせっせと作ってたわけだ。
あいつは双子といっていたが、実はもう一人くらい隠してるんじゃないだろうか。
部長はファイルをざっと見ると、しばらく何かを考えていた。
「しかし、プロジェクトチームを作り、国際規定を作った上、運営が出来るようになるまでにどのくらいかかると踏んでいる? その間あの仮想空間は野放しか?」
「いいえ。彼はすでに仮想空間の殆どを閉鎖するように動いているはずです」
単に俺たちのアクセスを拒否するのか、それとも本当に閉鎖するのか、それは少佐にはわからない。
全てを閉鎖することは出来ないとヒプノスは言っていた。
それはなぜなのか
「最後はタナトスが決める」
少佐へのメモはこの言葉で終わっていた。
神経質そうな細く、丁寧な文字で。

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