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18 regain the lost regnum

mission 18 【奪還】

目の前がちかちかするおなじみの感覚。
誰かが“妖精国からの帰還”と呼んでいたのも頷ける。
Aは目を覚ますなり、周りの者がコードを取るのももどかしく、自分で乱暴に引きちぎり立ち上がる。
おざなりに服を引っかけると、部長の下へ急いだ。
「お、おいA待てよ!向こうで何があったのか説明しろ!」
背後でEの声がするが、Aは振り向くことなく通路を駆けだしていった。
「部長!」
秘書の制止も聞かず部長室へと入ると、部長は珍しく端末を眺め険しい顔をしていた。
「A君、君が無事で何よりだった。
 君の行動のトラックデータが、突然遮断されたので危惧しておったのだよ」
「わ、私は大丈夫です。それよりも少佐が……」
最後に見た少佐の姿が蘇る。あの足、ちゃんとあの後手当てしてもらえたんだろうか?
あんなに血が……もしあのまま……。
まずい、このままでは涙が。思わずぎゅっと目をつぶり、唇をかみしめる。
その時背後から両肩を支える力強い手を感じた。Eだ。Aの様子を見て、追い掛けてくれたらしい。
その力強さに元気づけられて、Aは経過を部長に報告した。
「部長、もしかしたら例の会議が標的ではないでしょうか?」
Aが報告し終わると、Eが背後から声をかけてきた。
「え、会議って?」
「ちょうど今、それについての資料をまとめていたところなんだ。
 今回のこともあって、仮想空間における国際協力と安全保証についての会議が行われることになったんだ。
各国外相または担当官が、仮想空間上で話し合うことになっている。これが成功すればこういった会議が移動時間を気にせず、安全に行うことができると、かなり力の入ったプロジェクトなんだよ」
「でも、もしそこでヒプノスが要人たちを人質にしたら?」
クラークの言っていた計画はこれに違いない。Aは確信した。
「しかしあくまでもバーチャルな会議だろ?
スイッチを切ってしまえばいいんじゃないか?確か強制帰還モードがあるし」
EはAが抱く危惧に納得がいかないと行った表情だ。
「ヒプノスならばそれを無効にすることもできるんじゃないか?」
「だが証拠がない」
それまで黙っていた部長が口を開いた。
「証拠があれば事前に各国に通達し、場合によっては会議は延期もしくは中止できる。だがそれがなければ我が国だけで止める権限はない」
「でも、今までのヒプノスの一連の行動について報告を見せれば?」
Aの問いに関して、部長は言葉を濁し腕組みをして黙ったままだ。
「まさか…ヒプノスの件は機密事項なんですか?」
クラークの言った“公表されたら身の破滅だ”というのはこういう事か?
「部長、何を隠しているんですか?
 このまま会議が行われてしまえば、どんなことが起こるかは火を見るより明らかなんですよ!」
「だが儂では権限がないのだ…」
Aは呆然と立ちつくすしかなかった。情報部においては情報はそのレベルにより厳重に管理される。自分も歯車の一部である限り、それを崩すことはできない。
ではこのまま手をこまねいているしかないのか?

部長の部屋を出たAは、前から歩いてきた男に誰かに肩をつかまれた。
「な?あ、カーンじゃないか!」
「ひどいな、気がつかなかったのかい?
 踊らんばかりに必死で手を振ってたのに」
カーンはやけに機嫌がよさそうだ。いつもコンピューターにへばりついている彼が、廊下とは言え情報分析室の外にでているなんて珍しい。
「ふふふ……僕が持ってるこのファイルが何か、聞かないのかい?」
「もしかして、情報が復元できたのかい?」
カーンはそれに答える代わりに、手にしたファイルをAに広げて見せた。
中には研究協力機関や出資者のリスト。国内外にわたっている。
そのほか数種類の書類、データベース……これは……!
「どうやら初期段階の資料らしいんだけどね。あとはこの情報を元にヒプノスの居場所やホストコンピューターの場所のヒントがあるかどうかだ」
カーンが得意げに先を続けようとするのもかまわず、Aは彼を誰もいない会議室に引きずり込んだ。
抗議の声を上げそうになるカーンの口を素早く押さえ、Aはカーンを座らせた。
「これから僕の言うことは、できれば内密にしてもらいたいんだけど?」
「話によるな」
「たとえばの話なんだけど、今度仮想空間での国際会議に、サイバーテロが入るかも…
 なんて噂が、出所が不明で参加者の耳に入るってことは……あったら大変だよね」
「そりゃ大変だな」
「でもそれって難しいよね。出所がわからないようにするのは無理だよね?」
カーンはAの言葉に明らかにむっとしたようだ
「おい、僕を誰だと思ってるんだ? まあ小一時間ですむよ」
そう言ってカーンは立ち上がった。ふとドアの前で思い出したように言った。
「そうそう、僕がここを歩いてきたのは、部長に相談があるって呼び出されたんだ
 “多少無理を言うが、向こうから会議に欠席したくなるような方法はないか”って」
「あ……」
思わずカーンの座っていた椅子にAは座り込んだ。
そうだよなぁ……。だれもこのまま手をこまねいていろ、とは言っていなかったもの。


Aが去った後、少佐は注意深く上体を起こした。もうもうと舞う塵のカーテンの向こうから、伯爵が駆け寄ってきた。
伯爵は一目で状況を把握すると、信じられないような力で瓦礫を持ち上げると少佐を引きずり出した。
「……少佐」
少佐は伯爵の声が震えているのに気づいた。
膝から下に鼓動と同じリズムで激痛が襲ってくる。
思わず歯を食いしばるが、意志に反してうめき声が漏れる。
「ああ、やばいな……感覚が…完全に戻ってきやがった」
こいつは伯爵じゃない。わかっているのだが、この顔の前で弱音を吐くのは死んでもごめんだ。
自分でも馬鹿な意地を張っていると、一人苦笑する。しかもヘタをすればこのまま……。
「……死なせない」
伯爵はそう言うと少佐の前にかがみ込み、手を足の上にかざした。
「な、何をして?」
少佐の問いに答えず、伯爵はただじっと目をつぶっている。
やがて伯爵の全身が光を帯びだした。
光はやがて少佐を包み、視界が光に奪われる。
上下の感覚もない。光はやがて閃光となり、少佐の視界は完全に奪われた。

一瞬気を失っていたのだろうか。

そして少佐は足の痛みが引いているのに気がついた。
それどころか……足は無傷のままだ。何が起こったんだ?
ふと目の前の伯爵が膝をついて、今にも倒れそうな様子だと気がついた。
そしてその足下に広がる血だまり…ばかな、傷ついたのは俺だ。
伯爵は荒い息で、のろのろと顔を上げる。
「君を直すことはできない。でも代わりに君の足の状態を僕のものと交換してみた」
「ば、ばかな!?何て事しやがる、おい、戻せ!!お前が死んじまうだろう!?」
少佐の言葉に思わず伯爵は微笑む。そっとその手を少佐の肩にかける。
あまりに弱々しいその感触に、少佐は動くこともできない。
その時、伯爵の体が、一瞬ゆらいだ。まるでテレビの画面のようなノイズが伯爵を包む。
「だ…だめみたいだ。書き換えはうまくいった…とおもう…でも、安定できない……」
伯爵の体がますます薄くなり、少佐は思わず伯爵の手をつかもうとするが、
その手はむなしく空を切ってしまう。
伯爵はまっすぐに少佐を見つめると、何かを言わんと口を動かしている。
しかしもうそれは少佐の耳に届くことはなかった。

少佐は部屋の中で、動くことができずにいた。
目の前に、伯爵いた痕跡は、何も残っていない。
僅かに少佐の肩に、手の感触だけが残っていた。

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