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17 Cost of Resurrection02

mission 17 【代価2】

ーーー疲れた……。
結局今日もヒプノスは「計画」について何も教えてくれなかった。
『貴方には貴方の役目があります。そしてそれは私が指示を出すのでなく、貴方がその目で見て経験をした上で、決断して欲しいのです。もう少ししたら貴方は自分の見たものについての意見を私に聞かせてください。その時こちらも全てお話ししましょう』
帰り際にヒプノスの言った言葉の意味を、未だはかりかねていた。
少佐は重い足取りで部屋に戻ってきた。
「少佐!!」
ドアを開けるなり伯爵が駆け寄って来た。
そのただならぬ様子を見て、少佐は伯爵の腕をつかむと、有無を言わさずバスルームへと押し込む。
勢い良くシャワーの栓をひねる。これなら盗聴されていても、大丈夫だろう。
「何があった?」
「き、君の部下のAさんが……クラークに拉致された。
 少佐に話があるそうなんだ。一人で来れば、彼は傷つけないと伝えろと」
あの馬鹿もんが!!だから帰れと言ったはずだ。少佐は思わず頭を抱えた。
これが現実世界だったら、即刻アラスカ送りだぞ。……しかし普段のAならばこんなへまをする事はないはずだ。
少佐はひとつため息をつくと言った。
「いつ、どこに行けば良い?」


そのアパートはヒプノスの襲撃リストから外された中の、ごく小さなところだった。
おそらくはクラークの単独、もしくは少人数しかいないだろう。この件にタナトスは関わっているか?
奴のスタイルとは思えないが……。
部屋をノックすると、クラークではない若い男がドアを開けた。
無言で少佐と伯爵を奥へと促す。
「思ったより早かったな。ヒプノスの所に入り浸ったまま、帰ってこないんじゃないかと心配してたぜ」
クラークは部屋の奥にあるソファーに半ば横たわったまま言った。
Aは縛られるでもなくその横のいすに座っていた。だが殴られたのだろう、唇が少し切れている。
「…少佐、す、すみません」 
「大丈夫か?」
Aはゆっくりと頷く。そしてちらりと視線を右手の方に向けた。
少佐がその方向に目を向けると、小型の爆弾のような物がテーブルの上に乗っていた。
レジスタンスの他のアジトでも同じような物を見かけた。幸い使われる事はなかったが、こちらの調べでそれなりの威力は認められた。下手をすればこの部屋だけでなく、隣の部屋も無事ではすまないだろう。Aが動かなかったのも頷ける。
「確か俺は一人で来いと言ったはずだが?」
クラークはおそらく爆弾の起爆スイッチであろうリモコンで、伯爵を指した。
「あなた方にはV.I.である私は、人間と数えないと思ったのでね」
伯爵が肩をすくめていった。
クラークはそれに答えずふん、と鼻を鳴らし、少佐の方を見た。
「まあいい。本題に入る前にあんたに聞きたい。
 一体誰の見方なんだ?  情報部の任務ではない、と言ったよな。
 あんたにしては行動に一貫性が見えない。まるで巻き込まれている、って様子だ」
「その通りだ」
クラークは再びフンと鼻を鳴らす。少佐の言う事は全く信じていない様子だ。
「マイヤーの野郎は、あんたの事をほっとけという。
 ヒプノスがやった俺たちレジスタンスへの襲撃は、お前の本意ではない、と」
「お前の考えはどうなんだ?
 お前も見る限りマイヤーの部下とは思えない。
 お前の目的は何だ? なぜこの仮想世界に固執するんだ?」
少佐は前から疑問に思っていた事を口にした。
クラークは決してこの空間に望んでいるようには思えない。
少佐の問いにクラークはふとその表情を曇らせた。だが、答えようとはしなかった。
「俺は俺で事情があってここに来ている。
 今はあんたの問題から片付けていこうじゃないか。
 俺は確かにマイヤーの部下ではない。目的が同じだからレジスタンスにいたんだ。
 だが、あいつのやり方では間に合わない」
「なんだ? 間に合わないというのは。あんたは何を知ってるんだ?」
少佐の問いにクラークは黙って首を振る。
「忘れるな。今の主導権は俺にある。あんたのおかげで手足をもがれた状態だ。
裏切りの代価は……死だ」
「俺に死ねというのか?」
「馬鹿な、あんたを殺して何になる。死ぬのはヒプノスだ」
「簡単に言ってくれるな?  ハイそうですかと言って奴を殺せるならば、
 とっくに誰かがやってるぜ」
そういいながら少佐は部屋を歩き回る。何かを考えている風に見せかけ、さりげなくクラークの視界からAを遠ざける。それに気づいたAは、いつでも動けるように体制を整える。なんとかチャンスをつかんで、リモコンを取り上げなければ。伯爵もそれを察し、じりじりと入り口の方へ体を寄せる。
「だが、奴を止めなければ……もうすぐ始まる…
 奴がみんなを押さえたら、俺たちは止めるすべがない」
「——何を言っているんだ? おい、話せ! 何が始まるんだ?」
少佐は思わずクラークの肩をつかみそうになるが、クラークはリモコンをかざし牽制する。
「考えたことがあるか? この空間を維持するのに一体どのくらいの費用がかかるか?
 コンピューターシステムだけじゃない。 ここにいる人間たちだって、むこうでただ眠っているだけと思うか? その生命維持に一体どれだけかかるか?」
確かにそうだ。 少佐は最初このプロジェクトを単なるコンピューターのシミュレーションだと思っていた。しかしこの世界は違う……もしかしたらとんでもない事が起こっているのかもしれない。
「だが、たとえ何かを盾に取ったとして、ヒプノスの出す条件をのむと思うのか?どの国もテロには屈しないと言う姿勢を示すはずだ」
「テロじゃないさ。それにこれは公にされないだろう」
そう言いながらクラークは、窓の外を見る。その苦痛に満ちた表情の意味は?
「……俺たちには拒否できない…公表されたら身の破滅だ…」
クラークが何かを思いだしたかのように、眉間にしわを寄せ、首を振る…何かを振り払うかのように。
少佐はその機会を逃さなかった。
全身でクラークにタックルし、リモコンを持つ腕をすばやく押さえこんだ。
Aもそれに敏感に反応し、クラークのもう片方の腕を押さえ用としたその時——
入り口を蹴破り、数人の兵士たちが銃を構えて乱入してきた。伯爵は彼らに突き飛ばされ、部屋の外へ押し出された。
少佐たちがそこに注意を向けた一瞬の隙をついて、クラークが床に沈み込みリモコンのスイッチに手をかけた。
それを止めようとした少佐の腕は、届かなかった。
沈み込むスイッチが、少佐の目にまるでスローモーションのように映る。
少佐はとっさにAを抱え込むと、彼を下に床に伏せる。背中から耳をつんざくような轟音と爆風が、そして熱が押し寄せてきた。

——どのくらいの時間がたったのだろうか?
たぶん気を失っていたのはほんの僅かだろう。体が動かない。爆風で何かが落ちてきたようだ。
少佐はAの様子をうかがう。気を失っているようだが見たところ外傷はないようだ。
だが、この鈍い痛み…どこか遠くからのようなこの感覚は何だ?
やっとの思いで体をねじり自分の腰から下を見ると、崩れ落ちた壁と家具の残骸の下、奇妙にねじ曲がった自分の足が見える。ゆっくりと黒いシミが床に広がる。それが自分の血らしいと気づくのにしばらくかかった。
殆ど感覚がない……これはこの仮想空間のせいか?
「この世界で起こったことは、現実の体に影響する」伯爵の言葉がよみがえる。
その時、クラークの悲鳴が聞こえてきた。
立ち上る粉塵の向こうで、片目を押さえクラークが喚き散らしている。
自分の血を見てパニックを起こしているのか?
「俺はもう失うのはいやだぁあああああ!」
「しっ…かりしろ…クラーク?」声をかけるが、少佐自身、力が入らず声も切れ切れになってしまう。
クラークは一瞬少佐の方を見、その姿を見てヒステリックに笑い出した。
「はははは!!! あんたもか! 
せっかくこの世界で自由になったのに、もうおしまいだ!」
「な、何を言ってるんだ? とにかく…手当は受けられる…はずだ。落ち着くんだ」
その言葉にクラークは首を振る。
「あんたにも今にわかる…」
そう言いながら少佐が声をかける間もなく、爆風でガラスの吹き飛んだ窓から飛び降りた。
「な…何故だ…!?」
何が起こったのか? クラークは一体何に絶望したのか?
呆然とする少佐の下で、Aが目を覚ましたらしく、身じろぎをした。
倒れている兵士たちも、何人かがはうめき声を上げ、立ち上がろうともがく者もいる。
「少佐! 大丈夫かい?」
伯爵はドアの外にいたおかげで無傷だったらしい。
少佐の元に駆け寄り、体の上の瓦礫を払いのけながら、その様子を見て息をのむ。
Aも意識を取り戻し、現状に言葉を失っていた。
「しっかりしろ」少佐は茫然自失になっているAの頬を平手ではたく、はっとして我に返るAに向かい、少佐は言った。
「いいか、お前はすぐに帰還しろ」
「な?少佐をこのままにしていけません!!」
「馬鹿もん! お前にできることはここではない!
それよりもクラークの言っていたことを覚えているか? 何かが起きようとしているんだ。
おまえは帰れ。今すぐだそして、これから起ころうとしていることを突き止め、止めるんだ!」
だんだんと感覚が戻ってきたらしい、鋭い痛みが少佐を襲い、思わずAの腕をぎゅっと握ってしまう。
苦痛のうめきが漏れそうになるのを必死で押さえ、食いしばる歯の間から最後に一言絞り出す。
「…い、行け!!」
「少佐……どうかご無事で!」そう言いながらAはPDAを取り出し、操作をする。
Aの姿が光に包まれ、やがて輪郭が薄れ消えていった。
少佐に向かい敬礼をするその目に、光る物を見たような気がした。

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