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15 hupokrisis-3

mission 15 【裏切-3】

「この野郎!!」考えるより先に手が出た。
しかし少佐の拳がヒプノスに届く前に、伯爵によって遮られてしまった。
「少佐!落ち着いてくれ!」
後から伯爵に羽交い締めにされ、動くことが出来ない。本物の伯爵ならば、容易く振り解けたろう。しかしこのV.I.はびくともしなかった。そんな少佐をヒプノスは面白そうに見ていた。少佐の怒りなど、全く気にしていないようだ。
「聞きしに勝る猪突猛進な方だ。ここで私の怒りを買うのは、良策とは思えませんね。
 …それに、元々ここに来たのだって、あなたの意志とは言えないではないですか。
 ゲームマスターが変わっただけで、あなたの立場は大して変わって無いと思いますが?」
「うるさい! 何だってお前らは、人の事をお構いなしなんだ!
 俺はゲームのコマじゃない! いい加減にしろ!!」少佐の怒りは頂点に達していた。
どうしてここまで俺をこけにしやがるんだ。ろくに何も情報を伝えず、俺をここに寄こした情報部を始め、マイヤーとヒプノス、そろいも揃って俺をいいように扱おうとする。そのくせ何もこちらには知らせない。ぺーぺーの頃だってここまでの扱いは受けたことがないぞ。
その時、少佐は怒りのあまり、重要な言葉を聞き逃していた事に気がついた。
「——ゲームマスターが変わっただけ?」
「そう。あなたのことを調べていて、気がつきました。
 あなたは私の弟に会っていますね。
 最近彼は、私から姿を隠しているようなんですよ。
 ですから、あなたを手に入れることで、彼がどう出るか見たいのです」
「あんたら…双子か?」
少佐はそうだと思っていても、あえて出さなかった疑問を、やっと口に出した。
実のところ少佐は、二つの可能性を考えていた。二人は兄弟か、もしくはヒプノスはマイヤーのV.I.だと思っていたのだ。
「そう。私たち二人が、この世界を創りました。
 ——尤も、情報部は私が一人だと思っています。
 もともとは私が情報部のために始めたことでしたが、
 情報部は私を裏切った。この世界を取り戻すために、弟の力を借りました」
「最初はひとり?なぜあんたの弟は、最初から協力しなかったんだ?」少佐は怒りも忘れ、聞いた。
「弟はこの実験に反対でした。今となっては、彼の危惧は正しかった。
 彼らはここを楽園どころか、牢獄にしようとした…」
ヒプノスはそこまで話すと、言葉を切って少佐の顔を見た。
「今はここまでにしましょう」
またか。少佐の明らかに不満げな顔に気づいたヒプノスは、もう一言だけ付け足した。
「ひとつヒントを差し上げましょう。
 弟のコードネームは“タナトス”です」
ヒプノスはこれ以上会話を続ける気がないとふんだ少佐は、アジトを後にした。
ヒプノスはもうひとりの名前がヒントだという。タナトス——神話ではヒプノスの双子の兄弟だ。ヒプノスは眠りと幻惑の神と呼ばれているが、タナトスが司るのは“死”だ。
その時少佐は、以前クラークが言った“お前…死人か?”という言葉を思い出していた。死んだはずの男、死の神…これはどういうことだ?


謎が答えられぬまま2日後、少佐の元にヒプノスから連絡が入った。
「明日正午ちょうど、作戦決行だそうだよ」伯爵が詳しい計画書をプリントアウトしながら言った。
「シミュレーションをするから、来て欲しい——だって」
「場所は?」
「いつもの司令室」
やはりそうか。シュミレーションといっても少佐の世界では、実物大のダミーを使ってやるものだが、ヒプノスのことだ。どうせ画面上で確認するだけだろう。しかし、捕らえようとする相手は、人間だ。行動には不確定要素が多い。それをどう計算したのだろう?

 司令室に着くと、少佐は早速その疑問をヒプノスにぶつけてみた。
「人間の行動を予測するためには、出来るだけ多くのサンプルを必要とします。その点ではこの世界は、元々戦闘シミュレーションから始まっているので、データは充分に揃っています。特に近年では対テロ作戦に重点を置かれていましたので、色々な場所やシチュエーションで繰り返し訓練を行っていたんですよ。ですから、今回の作戦の為のプログラムも、比較的短時間で組むことが出来たんですよ」ヒプノスは先生が生徒に教えるような口調で説明した。
 ヒプノスの言うように、確かにこのH計画は数年前からすでに進められていた。俺たちはまさか自分の手の内を開かすことになるとは知れず、せっせとサンプルを提供していたわけだ。
しかも今回のレジスタンス達は比較的年齢層が高い。経験値の高さは、パニックに陥る確率の低さとなる。不安定要素の少なさが計算を容易にしているのか。少佐は目の前に展開するシミュレーションに、簡単に意見を述べた。あまりアドバイスすることはなさそうだ。
 この作戦に、レジスタンス達の勝ち目はない。

 数時間後少佐は伯爵の待つ部屋へと一旦戻り、装備を調えた。ヒプノスはやんわりと司令室に残ってはどうかという提案をした。しかし少佐は現場へ行くことを望んだ。俺はこの世界の神になりたいわけではない。その結果を身をもって体験せねばならない。
 本来ならば作戦に備え、身体に休息を取らせなくてはいけない。しかし、少佐は一睡もすることは出来なかった。何度かマイヤー、もしくはアジトの誰かに連絡を取りたい誘惑と闘った。
 やがて、白々と夜が明け始めた。
「時間だ」立ち上がり部屋を発とうとすると後から伯爵が声をかけてきた。
「少佐」
「なんだ?」
「今更だけど…やめられないのかい?」
背後から聞こえる伯爵の声が、やけに心細げだ。
「ばかなことを」
伯爵が何を言いたいのかは分かる。
「相手はプログラムではない、人間なんだ」
「だから——だから俺が行くんだよ」
これは戦いだ。プログラム同士ではなく、人間の。

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