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14 hupokrisis-2

mission 14 【裏切-2】

「——いかがですか? ここが私の世界の中枢。
 私自身だと言っていい」
ヒプノスに案内されて、丘の上にあるアジトに案内された二人は、外観とはまったく違う広さに驚かされた。
中央が2階吹き抜けになったその部屋は、四方の壁をびっしりとモニターで覆われている。
部屋の中央には数台のコンピューターが稼働している。
部屋の中にはヒプノス以外誰もいない。
「ここに入れるのは私と、私の許した数人だけです」
「じゃあ実質一人でここを管理しているんですか?」伯爵がそう言いながら端末の一つ一つをのぞき込む。
「ええ。しかし私が全てを見ている訳ではありません。
 たとえば伯爵、あなたのように自分の意志で動くよう基本プログラムを組めば、
 あとは勝手に動いてくれる。
 ここまで来るのは大変でしたが、完成した今私がやることは、意外に少ないのです」
少佐はここで思い切って聞いてみた。
「あんたの本体はどこにいるんだ?もちろん場所は教えないだろうが、
 現実世界(あちら)と仮想世界(こちら)を行き来しているのか?
 それともずっとこちらにいるのか?」
「もちろん行き来していますよ。私の体が発見されてしまえば
 おしまいですからね。いくつかの場所を不定期で移動しています」
「それと…」
「せっかちですね。私たちが出会って間もないのに、あなたは質問ばかりですよ」
ヒプノスはそう言って、やんわりと少佐の質問を遮った。
「う…」少佐は思わず言葉に詰まった。
思いもかけずヒプノスを目の前にして、頭の中は疑問だらけだ。俺としたことが…落ち着くんだ。
「もしあなたが、私の信頼を得たならば望む情報を与えましょう」
「ギブ・アンド・テイクか」
「そう。まずはあなたのお手並みを拝見させてください。
 少々おいたの過ぎる人たちがいます。
 少しお灸を据えたいと思っているのですが…」
「どの程度に?」
「殺す必要はありません。できれば拘束してください。
 できなければアジトは破壊していただきましょう」
簡単に言いやがる。
それにしてもヒプノスは、あのマイヤーと胡散臭い笑みといい、声の抑揚の付け方までそっくりだ。だが最後にマイヤーにヒプノスの正体を聞いた時に『会えば分かる』といった事を考えると、こいつは別人だ。一つの世界に同じ顔の男が二人、それぞれが俺に要求を突きつけてくる。これは仕組まれたことなのか?

ヒプノスがキーボードを叩くと、目の前にまるでスクリーンがあるかのように画像が現れた。
いくつかの画像が順に映し出され、その横に小さく地図と見取り図が表示される。それらはアパートの一室や、店の場合もある。中にはマイヤーと会った、森の中のアジトも含まれていた。次に数人の男達の顔。“死んだはずの男”クラークもいる。しかしさすがにマイヤーの顔はなかった。
「これがレジスタンス達のデータです。覚えましたか?」
そんな急に無理だろう、と言おうとした矢先、
「はい」
と、伯爵が応えた。なるほど。V.I.とは便利なものだ。
「明日必要な人数と計画を話し合いましょう」
そう言うとヒプノスは踵を返し、部屋の奥にあるイスに腰掛けた。
少佐が見ている前で、ヒプノスの体は点滅する光に包まれ、やがて消えた。
取り残された少佐達は、仕方なくアジトを後にした。
ヒプノスのいない間に、この部屋でデータを見ることは出来ないかと思ったが思い直した。
彼のことだ、そんなことは出来ないようになっているからこそ、こうして置き去りに出来るのだろう。

それにしてもマイヤーはこの事態を想定しているのだろうか?
今マイヤーと会ったアジトに近づくのは、良策とは言えない。
あいつのことだ。俺をヒプノスに会わせた時点で、このくらいのことはとうに考えているはずだ。
仕方なく少佐は伯爵の持ち帰ったデータ(それらはアパートの端末にもう入っていた。どうやってデータを入れたのか伯爵に問いただしたが、伯爵の説明は全く要領を得なかった。彼にとってそれは、息をすることと同じレベルらしい)を見ながら計画を練った。
いくつかは一人または数人のグループで、拠点にしているのも普通のアパートの部屋だ。これらは行動を把握した時点で、直ぐに捕まえることは出来るだろう。
少佐は伯爵に各施設の襲撃に、必要な人数と装備を記憶させた。伯爵は少佐の言葉を、一言一句間違えず記憶している。便利なものだ。
問題は森のアジトだ。あそこには少佐が訪ねた時点で7〜8名いた。当然まわりにも歩哨がいただろう。
最初に叩くならここだ。ここを壊滅させれば、仮に逃げ出した者がいても、潜伏先はこのリストにある部屋か、同じ様な施設だろう。後日、各所を同時に襲撃することは可能だろう。
計画の骨子を、伯爵に向かって口述し終わり、少佐は時計を見た。もう夜中の2時過ぎだ。
ふうっとため息をつき、少佐は珈琲を入れるためキッチンユニットへ向かった。
「少佐…」背後から伯爵の不安げな声がする。
「なんだ?」
「本当に…ヒプノスの言うことを聞くの?今日の少佐は何だか別人のようだよ。
 人を傷つけるもしれないのに、平然としている」
「当たり前だろう。俺は軍人だ」
「僕はあなたには、ただの人であって欲しい…」
「はあ?」
何寝ぼけたことを言ってやがる?思わず力が抜ける様なことを、こいつ本気で言っているのか?
振り向くと、真っ直ぐ少佐を見つめる伯爵の顔があった。子供のような純真な目。
少佐の胸の奥で何かもやもやとしたものがわいてくる。
慌てて頭を振り、バカな考えを振り払う。
しっかりしろ。俺は今、ヒプノスから情報を得ることを第一に考えるんだ。
「とにかく、俺はこの状況を打破するためには、ヒプノスの計画に荷担するしかない。
 あいつの目的がなんなのか、それを知りたい。お前も協力してくれ」
伯爵は暫く少佐の顔を見つめて、そして小さく頷いた。そして何も言わず部屋を後にした。
取り残された少佐は、しばらくの間伯爵が出ていった後の空間を見つめ続けていた。


翌朝、少佐は伯爵と共にヒプノスのもとに向かった。昨日から伯爵は一言も口をきかない。すねてやがる…しかしなだめる手だてを思いつかぬまま、少佐も黙って歩いていった。
アジトには人がいない。少佐達が進むと、自動的にドアのロックがはずされ、中心の部屋へ導かれた。
部屋の中央にはヒプノスが腰掛けていた。
「おはようございます。少佐。昨日私が依頼した計画は、どうですか?」
「ああ、出来てる」そう言うと少佐は伯爵に向かって頷いた。
伯爵が目の前の端末に向かって手をさしのべると、部屋の中央にスクリーンが現れ、森のアジトの図面と周辺の地図が映し出された。
「建物の中はおそらく8人が待機できる程度だろう、
 しかし周辺に分散している奴がやっかいだ。
 まず3班に分かれ、Aはここで窓を破って突入、Bは入り口で待機。
 Cはアジトに戻ってくる歩哨を確保——」
少佐が図を指し示しながら計画を説明するのを、ヒプノスは黙って聞いていた。そして少佐が説明し終わると、満足そうに頷いた。
「結構。さっそく必要な人員をそろえましょう。決行は3日後」
「ちょ、ちょっと待て、いくら何でもそれじゃあ訓練している間がないだろう?」
驚きのあまり、少佐は慌て立ち上がった。
これだから素人は怖い。作戦を実行するには、綿密な計画だけでなく、遂行する人間が動けなくては成功しない。計画通りに動くためには、体に覚えさせるしかないのだ。
しかしヒプノスは余裕の笑みを浮かべている。
「あなたは軍人でこういった作戦のプロかもしれません。しかし私もプロですよ」
「あ…」少佐はその瞬間ヒプノスの言わんとしたことを理解した。
「V.I.か」V.I.ならば繰り返しの訓練は必要ない。——そしてそのためのプログラムにかかる時間が2日間、と言う訳か。そんな短期間でプログラムを仕上げるなんて、やはりこいつは天才だ。情報部がこいつを恐れる理由が分かるぜ。
「それはそうと、あなたの計画では他のアジトについて、何も触れていませんね」
と、いかにも今思い出したように、ヒプノスが言った。
「テストとしてはこれで充分だろう。
 レジスタンス全滅作戦を、俺に指揮しろと言うには早いだろう。
 俺はそこまであんたに協力すると入ってないぜ」少佐の言葉にヒプノスも頷く。
「確かにこの狭い世界では、たとえ逃亡しても私は全てを把握できる」
「ではこれで作戦が成功すれば、テストは合格か?」
「…ええ。」ヒプノスは再び頷く。しかし何だろう、何か嫌な予感がする。
こいつの微笑は何の意味が?
「では変わりに情報を…」
少佐が口を開いた時、ヒプノスは人差し指を自分の唇に当てた。
黙れと——?
少佐が言葉を続けられずにいると、ヒプノスは少佐に近寄りながら言った。
「あなたの仕事には感心させられますよ。出来ればこのまま私のスタッフになって欲しい」
そう言いながら少佐の背後に回り両肩に手をかけて、彼を壁際のディスプレイのひとつに向かい合わせた。
「しかしあなたは簡単に自分の主義を曲げない方だ。
 ——あなたのことは調べさせていただきました。素晴らしい功績をお持ちだ。
 そして、ますますあなたが欲しくなった。…どんな手を使ってもね。
 ごらんなさい」
ヒプノスに促され、少佐は目の前のディスプレイに注目した。
そこには少佐が最初にこの世界へ来た時のような、実験室が映っていた。しかしもっと規模は大きいらしい。ぼんやりとではあるが二人の人影が映っている。手前にいるのはヒプノスだ。正確には彼の身体(ボディ)…。
「あなたは私がどこにいるか、聞きましたね。今お答えしましょう。
 ——あなたの隣です」
映像がズームし、隣に横たわる人物がはっきりと映し出された。それは紛れもなく少佐自身だった。
「私はあなたを手に入れました。
 ——少なくとも“身体”は、ね。
 さて、あなたの“意識”はどうしますか?」

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