« 12 An allegation | トップページ | 14 hupokrisis-2 »

13 hupokrisis-1

 

mission 13 【裏切-1】



「あんたが…ヒプノス?」少佐は暫くヒプノスを見つめていた。
おそらく呆けた顔をしていたに違いない。
ヒプノスは面白がっているような顔をして言った。
「そうです。あなたの顔から察するに、私のことお聞き及びのようですね。
 一体どんな男を想像していましたか?」
「いかつい小太りのおっさん…」むすっとした表情で少佐が応えると、ヒプノスは破顔した。
「いいですね。面白い方だ。
 あなたが考えていることは、おおかた分かりますよ。
 “本当にこいつはヒプノスなのか?”
 “なぜこんな若造に、歴戦のエージェントまでが荷担するのか?”
 答えはこれからあなた自身で見つけてください」
「あんたは俺たちに何をさせたい?」
ヒプノスが、もう一人のマイヤーが、なぜ揃って自分に関わってくるのか?
少佐には皆目分からなかった。自分が何かのコマにされているのだが、ゲームの種類も勝利の条件も分からない。今はストレートに聞いてみるしかない。
「正直なところまだ何も。ただ私はあなたに興味がある。あなたは他の人と違う
 “何か”を感じるのです。まあ、勘…と言ってしまいましょうか。
 ——ところで、この世界で“自然”に振る舞うことがいかに大変か
 あなたは考えたことがありますか?」
「たまにとまどうこともあるが、まあ外国に行ったと思えば気にはならんな。
 だがここは物見遊山に来る所じゃないな。」
「そう。ここは楽園ではありません。たいていの人は仮想現実に“夢”を求める。
 現実であり得ない幻想をね」
「はっきり言ってしまえば、欲望を満たす事だな。ここなら美食を重ねても、金も健康も損なわない。
 従順な美女のV.I.をはべらせてもいい——か。ばからしい!
 それにあんたはそうならない様に、この世界に色々制限を設けているじゃないか」
「そうです。人々が皆あなたの様なら、楽園を創れたかもしれません。
 だが、ここに集う愚か者のために、私はここをネバーランドにする気はない。
 それに反発する人々が、私を脅迫してプログラムを変更させようとしてきました」
ヒプノスの言葉を聞いて、少佐は思いだしていた。
先日出会ったレジスタンスの男達は、体制と言うよりも自分の思い通りにならないことに、反感を抱いていたようだ。奴らなら自分たちの欲望のために、ヒプノスを脅すことぐらいはしそうだ。しかし、あの程度の奴らが脅威になるとは思えない。
NATO軍もヒプノスを捕らえたがっている。——体何のために?
どうやらこの世界への出入り口は、閉じられていない。ただヒプノスの行動を掌握できないだけだ。それがどれほど重要なことなのか?何人ものエージェントを費やすほどに?
少佐が考え込んでいる様を、ヒプノスと伯爵が興味深げに見ていた。
暫くしてヒプノスが、沈黙を破った。
「少佐、伯爵は役に立っていますか?
 私はV.I.をこの世界を形作る重要な要素としているのですが、
 たいていの人はただのお飾りとしか見ていない」
「ああ、役には立ってるぞ」少佐はそう言いながら伯爵の方を見た。
(そう言えばこの間伯爵にも同じ事を聞かれたな)
伯爵は少佐の言いつけを守り、黙って二人のやりとりを観察していた。
自分の創造主・神にも等しい男との対峙を、このV.I.がどう思っているのか、
彼の表情からは計りきれない。
「こいつを見ていて、俺たちが日常に行っていることは
 実は経験による学習が必要だ、ということを教えられた。
 ここにいるV.I.たちがみんなこんな素直なガキなら、いいように利用されるのがオチだぜ
 親のあんたはそこをどう思っとるんだ?」
少佐が逆につっこむと、ヒプノスの表情は一変暗くなった。
「確かに、ここに来る人間達は、それに気づくとV.I.を奴隷のように扱います。
 人間でなければ何をしてもいいと。」
そこでヒプノスは一旦言葉を切り、伯爵の方を向いた。
「しかし、伯爵をご覧なさい。彼を創ったのは私だが、育てたのはあなただ。
 あなたは、私がプログラムをするよりも遙かに多くのことを、彼に教えている」
伯爵はそれにうなずくと、信頼に満ちた視線を少佐に向けた。その視線を受け止めるのはあまりに居心地が悪く、少佐はふと横を向いた。そして、話を戻そうとヒプノスに向かって言った。
「いっそ教育者や心理学者を、この世界に連れてくるべきだったんじゃないか?」
「そうできるものならばね。しかし軍がこの世界を創った目的は、全く別のものでした」
そう言えば部長からは仮想世界を創る実験とは聞いていたが、その目的については知らない。
「それについては、いつか機会を見てお話ししましょう……」
少佐の期待に反し、ヒプノスはこれ以上この話を続ける気はないようだ。
「——さて少佐、あなたは私を捕らえますか?」
突然のヒプノスの質問に対して、少佐は応えあぐねた。ヒプノスはまだ少佐の任務を知らないはずだ。
「俺がなぜ?」
「ここに情報部の…しかも将校が来ると言うことは、
 私を捕らえろ、もしくは殺せと命令されている確率が大きい。
 たとえ今命令が出されていなくても、私に会ったと報告すれば、必ずそう命令されますよ」
そうは言っても少佐は、報告すらする方法を知らない。
ここでこいつをふんづかまえた所で、どうにもならない。
「たとえ命令されても、今の俺ではどうすることも出来ん。
 わかってて聞いてるんだろう?」
「まあ、ね」そう言うとヒプノスはにっこりと笑った。
(この胡散臭い笑みは、もう一人と同じだ)
少佐がむっとして黙っていると、隣で伯爵がそわそわと身じろぎしているのに気がついた。
「何だ?」
「あの…実は…少佐がヒプノスを捕らえた場合、どうするかという命令はきてるんだ」
伯爵は上目遣いで少佐に言った。まるで悪戯を親に告白するような感じだ。
「お前……くそ! どうしろって?」
「彼を拘束し、通信を入れると部隊が到着するんだ」
「それで?」
「少なくとも君はその時点で、帰還できる」
ここまでこけにされた事は、近年稀だ。少佐は思わず声を荒げて伯爵に言った。
「そして俺は事情の分からないまま、現実世界の日常に戻るのか?
 その後主を失ったこの世界はどうなる?
 お前はそれでいいのか?!」
その言葉に伯爵は呆然とした。
「え?だって命令は?」
「俺は、お前がそれでいいのかと聞いたんだ。覚えているか?
 前に『何をしたいか、何をすべきなのかを自分自身で決めろ』と言ったよな?」
伯爵は暫く項垂れ、考えていた。そして決意に満ちた目を真っ直ぐに少佐に向け、言った。
「少佐、僕は真実を知りたい。
 この世界が、僕が、何のためにあるのか」
「よし!」
それを聞いてヒプノスが言った。
「そう言うことなら、私とあなた達の当面の利害は一致したと考えていいですね」
少佐はそれに応えてただ頷く。
「それでは、私の作戦室にご案内しましょう」

|

« 12 An allegation | トップページ | 14 hupokrisis-2 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21723/2103345

この記事へのトラックバック一覧です: 13 hupokrisis-1:

« 12 An allegation | トップページ | 14 hupokrisis-2 »