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12 An allegation

mission 12 【疑惑】

「ヒプノスはふたりいるんだ!」
そう言ったAの言葉を暫くかみしめていたカーンは、やがて電撃に打たれたようにコンピューターに向かって、何かを入力しだした。
「分かった。それならばもっと探索範囲が広がる。
 それと、ふたりを識別できる特徴があるかどうか、行動パターンを分析してみよう」
「僕が考えるに、ここまで息のあった行動ができるのならば、
 お互いが古くからの知り合いか、肉親かもしれない」
「了解」
一心不乱にキーボードを叩くカーンを残し、Aは再び情報分析室を後にした。
もう一度、あの世界へ行き、少佐と接触したい。
空になった実験室、置き忘れていた時計…あの時の情景がAの頭から離れない。
少佐は今どこにいるんだろうか?現実の世界へ戻っているのか、未だ仮想世界にいるのか。せめてそれだけでも知りたい。
Aは情報部に戻ると、Cを呼んだ。
「僕はこれからもう一度、あの世界へ行ってみるつもりだ。
 たぶん2、3日はいられるように頼むつもりだ。
 君たちは引き続き、ヒプノスの探索をお願いするよ。
 もし、少佐が見つかったら連絡してくれ。
 あちらの世界でもメールをうけられるから」
「わかった」そう言いながらも、Cはそのまま立ってAの顔を見つめている。
「何?」
「お前…大丈夫か?」そう言いながらCはAの額に手をやる。
「最後にちゃんと休んだのはいつだ?」
そういえば少佐の行方不明を聞いてから、眠っていない。仮想世界へのダイブは眠ったことになるのだろうか?
だが、この状況で休む気にはならない。
「大丈夫。こういう時に踏ん張りが利くのは、君も知ってるだろ」そう言いながらAは背筋を伸ばし、余裕の微笑みを浮かべて(どうか、そう見えてくれ)情報部を後にした。
背後からCが声をかけるのを聞きながら。
「——A…無理してまたはげるなよ…」


Aが再び仮想世界に付いた時、あたりは薄闇に包まれていた。
一日が過ぎるのは早い。焦るばかりで何も成果が上がらない。ふらつく足で、以前伯爵と出会った場所に行ってみる。当然そこに彼の姿はなかった。何とか彼を捜す方法はないだろうか?
街灯が灯り始め、V.I.達が一斉に歩き出す。きっと夕方に帰宅するようプログラムされているのだろう。
Aはあきらめて、作戦本部へ戻ることにした。
「アレクシス!心配していましたよ。
 いつまで経っても戻られないから、何か事故があったのかと」
Aの姿を見つけ、ヴァルターが駆け寄ってきた。
「すみません。ご心配を駆けましたが、急に帰還させられていたんです。
 今度は少し長く居られそうなんで、よろしくお願いします」
「ああ、そうだったんですね。心配していたんですよ。
 まだこちらの世界に慣れていないあなたを、
 一人で行動させてしまって申し訳なかったです。
 てっきり“仮想世界酔い”で動けなくなっているかと思い、
 周囲を探したりもしたんですよ」
「じ、実は一度倒れてしまいまして、通りがかったV.I.に助けられました」
Aが照れくさそうに言った途端、まわりの会話がぴたりと止まった。
「今、何と?V.I.が自発的に人間に接触したんですか?
 それともV.I.に助けろと命令したんですか?」
「は?いいえ。こちらはもう喋る事なんて出来ませんでしたよ。
 あの、僕は何か変なことを言いましたか?」
Aにはまわりの人たちの不思議そうな様子が理解できなかった。
「V.I.が自ら進んで人間に関わることは、今までになかったんですよ。
 ヒプノスが新たなプログラムを加えたのか、
 それとも何か別の要因があったのか…」
「そのことなら、そのV.I.は私の捜している人物の、案内役をやっていると言ってました。
 ですから、彼に何か言われていたのかもしれないです。
 …それにしても、ヒプノスはそんなに頻繁に、この世界に干渉しているんですか?」
この世界は狭い。ヒプノスがこの世界に頻繁に現れるのなら、捜すのはたやすい。
どんなに警護が強固でも、狙おうと思えばいくらでも方法はある。
「ええ。ほぼ毎日我々はヒプノスの言葉を聞いています。
 今日もそろそろ始まりますよ」
そういうとヴァルターはリモコンのスイッチを押した。
カウンターの上にあるテレビのスイッチが入り、ニュース番組が始まった。
内容は現実世界のニュースだ。人々は熱心に画面に見入っている。
やがて画面が切り替わり、演壇のようなものが映し出された。
Aはこれから初めて目にするであろうヒプノスの姿を、しっかりと見ようと画面に近づいた。
男が数人歩いてきた。まわりを囲んでいるのはボディガードや側近達だろうか。
よく見るとその中には部長が言っていた、ヒプノスの調査に派遣したはずの情報将校の姿もあった。誰もが無表情だ。彼らは一体本当に洗脳されたのだろうか?それとも何かヒプノスに付く理由があるのだろうか。
やがて中央の男が、画面に向かって喋りだした。抑揚を押さえた、しかしはっきりとした口調で画面に向かって語りかける。
「諸君はもうお気づきだろう。先日の掃討作戦の効果で、
 レジスタンスの動きは格段に弱まった。
 ここで生き残ったレジスタンスの諸君らに、もう一度チャンスをやろう。
 投降した者には、引き続きこの世界での生活を保障しよう。
 それ以外君たちには逃げ場はない。現実世界へと逃げるか、ここで死ぬかだ。
 私はもう何度も彼らにチャンスを与えてきたが、これが最後となるだろう。
 我々の世界は秩序ある規律によって保たれている。ここだけが唯一
 人々の欲望から解放された、理想の王国となるべき地だ。
 君たちにも私の見えている未来が見えるはずだ。共に歩んでいこう」
演説を見ているAは、おかしな事に気が付いた。目の前で喋っているはずなのに、まったく顔が解らない。
確かに見えているのだ。声も聞こえている。しかし目を瞑ってその男の顔を思い浮かべようとしても、何も浮かばない。
これでは彼と道ですれ違ったとしても、全く判らないだろう。
「これは⋯⋯一体どう言うことなんでしょう」
Aは隣で見ていたヴァルターに聞いた。彼は肩をすくめていった。
「さあ?私たちにもさっぱりです。誰もがヒプノスの顔を知っているはずなのに
 そのくせ誰も思い出せない。直接喋ったことのある奴もいるんですが、
 その人でさえヒプノスの顔を思い出せない」
「ジャミングをかけられている?」まるでレーダーに映らないステルス戦闘機のようだ。
この場合は視覚的効果でなく、意識を操作されているのか?それもここの住人全てを?Aは改めてヒプノスの力を見せつけられたような気がした。

それから数日間、Aは街を情報を求め歩き回った。
掃討作戦があったとヒプノスが言っていたが、街に人間の姿が少ないのはそのせいだろうか?
Aはまた伯爵と出会った場所に毎日足を運んだ。しかし、伯爵に出会うことはなかった。
時間ばかりが無駄に過ぎていく。現実世界とのメールのやりとりでも、進展が伝えられることがなかった。
この世界でもAはほとんど眠っていない。しかし現実世界のように、肉体的に辛いことはない。しかし、今だ時折ではあるが襲ってくる目眩には、どうすることもできないでいた。
これがもし戦闘になったときに起こったら⋯Aは勢いよく首を振ってその考えを吹き飛ばそうとした。
しっかりしろ。ここでは精神力だけが僕をつなぎ止めているんだ。
夕方にほぼ毎日ヒプノスの放送があった。
内容は、新しい規則が出来たという報告やこの世界の未来についてのビジョンを語るなど、毎回違っていた。Aはともすればヒプノスの話に引き込まれそうになる自分に、困惑をしていた。ヒプノスの語る未来は素晴らしいもののようにも思える。しかし、現実は違うはずだ。レジスタンスはなぜ彼に逆らうのか、なぜ人々はヒプノスを恐れるのか。それが答えの一翼を担っている。惑わされるな。真実を見ぬけ⋯少佐がいつも部下達に言っていた言葉を改めて思い出す。
その時、Aの目に信じられないものが映し出された。テレビ画面の中でいつものように数人を引き連れ、ヒプノスが演壇に向かって歩いてきていた。今日は側近らしき男がひとり増えている。その男からAは目が離せないでいた。手が冷たくなる。それなのに背中に汗が流れるのを感じた。
Aの様子がおかしいのに、ヴァルターが気が付き、近寄ってきた。
「アレクシス?どうしました?」
Aはそれに応えることが出来ず、画面を指さし、一言やっとの思いで絞り出した。
「少佐⋯少佐がヒプノスと一緒にいる!」

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