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11 the double exposure-reverse side

mission 11 【二重の影-2】

「少佐、きっと君の君のお友達は、何か重要な伝言があるんだと思うよ。
“急いで連絡を取りたい”って言ってたから」
お友達?伯爵にはもう少し人間関係というものを、教えねば…
伯爵の言葉に少佐は応えた。
「分かってる。しかし今、会うわけにいかんのだ。
 明日にはまた違う奴らと会うことになる。
 その時に、俺に関するよけいな情報は入れたくないんだ。
 ここでAと接触したら、あいつの身の安全も図れない。
 ——おまえ、そいつとどこで出会ったって?」
伯爵はAとであった場所と、その時の様子を少佐に伝えた。
「なるほど。あいつ、無理して来たな。
 ひどいのか、その“仮想世界酔い”ってのは?」
「僕には分からないけど、船酔いに目眩を足したような感じらしいよ」
生まれてこの方乗り物酔いになったことのない少佐にとって、この情報はあまり役には立たないが、ひどい目にあっていることだけは想像できた。Aの性格はよく分かっている。ただ闇雲に来たわけではなく、それなりに調査し、報告することがあるはずだ。しかし…。
「あいつと話すのは、せめてヒプノスに接触してからだ。
 そうしたら連絡方法を考えよう。
 お前は、あいつと会うことがあっても、目立つところで話はするな」
伯爵はその言葉に頷くと、立ち上がってドアに向かった。
「ちょっと待て、まだ話は終わっとらんぞ」
「え?」怪訝な顔で振り向く伯爵に、少佐は身振りで座れと示した。
「明日のこともあるが、とにかくお前には、人間関係とその対処の仕方を教えとくぞ」
さあ、ここから道徳の時間だ。少佐はため息をつくと伯爵の正面に座りった。
少佐は伯爵に、軍の階級や先輩・後輩の関係、同僚や友人等考えつく限りの説明をした。
仕事や任務に私情の入る事のリスクについては、悪いと思いつつ、Zの経験を語って聞かせた。
伯爵は言葉としての知識はあったものの、経験としてはゼロだ。少佐の説明に、最初は的はずれな質問をとばしていたが、やがて的確な答えを返すようになってきた。改めてV.I.の能力に感心する。
「分かったよ。それで、明日君が接触する相手には、こう説明すればいいんだね。
“僕はナビゲーターとして案内している、目的はこの世界の監視。”
 それだけを言えばいいんだよね。それ以外、君が誰と何を話したかとか…
 私は一切聞かなかった。
 そしてこれから会う人については、まず観察してから判断する。OK?」
「OKだ。飲み込みが早くて助かるぜ」本物の伯爵ならば、こうはいかない。
あいつは好きだとか。嫌いだとか感情論の方が先に立つからな。
「でも…ひとつだけきいていいかい?」
「なんだ?」
「君と伯爵──オリジナルとの関係は一体何なんだ?」
伯爵の言葉に、一時少佐は言葉を失った。
今さっき“冷静な判断で人を評価し、目的に応じての対処をしろ”と伯爵に教えたばかりだ。
その自分が、まさかあいつは変態だとか大嫌いだとか、言うわけには行かない。
「君の話を聞いていると、彼は友人ではなさそうだよね。でも敵ではない」
少佐は無言で頷く。
「ましてや君の恋愛対象でもない。…彼の方はおおありだけど」
伯爵はくすりと笑いながら、最後の言葉を加えた。
「あいつと俺は…水と油だ。住む世界も、価値観も違う。
 俺にはあいつが分からない。
 あいつは俺の守ろうとするものを、簡単に打ち壊す。
 俺はあいつが大切にしているものが、理解できない」
「では僕は?」
「?お前は…ナビゲーターとして役に立ってくれとるぞ(一応な)」
「では僕は君の友人には、なれないかい?」
伯爵の言葉に、少佐は応えあぐねた。
「今まで一緒に行動してきて、君は不快に思った?」
少佐は首を振った。それを見て伯爵は安心したような様子で、話を続けた。
「僕と君では文字通り住む世界が違う。知り合って時間もあまり経ってない。
 でも僕は君の役に立ちたいと思ってるし、君をもっと知りたいと思っている。
 君が僕のオリジナルを良く思ってないのは知ってるけど、
 “僕”のことはどうだい?」
少佐は言葉に詰まってしまった。
もともと自分は好き嫌いがはっきりしている方だが、一部の尊敬できる友人を除いて、おおかたの基準は“役に立つか立たないか”、“話が通じるか”等、自分の行動にどう影響するかだった。
──もっとも伯爵はあの趣味のせいで、生理的にだめだと思うのだが…
それも今のところ対処できないほど迫られているわけではないと思うと、前ほどの緊張感はない。
真っ直ぐに見つめる伯爵の顔を、少佐はまともに見られないでいた。
こんなに真っ直ぐに友情を求められたことは、初めてかもしれない。
少佐が黙り続けていると、伯爵はふっと微笑んで言った。
「僕は君を困らせてしまったようだね。
 大丈夫。友情は強制できないことぐらい分かってるよ。
 それでも君は僕を拒否しなかった。
 それは君にとっては最大限の譲歩だと思う。
 だからそれで充分だよ。今は、ね」
今は…か。黙っている少佐の肩をぽん、と叩くと伯爵は部屋を出ていった。
少佐はしばらくの間、立ちつくしていた。

その夜、メリーさんの羊は3回繰り返された。


翌日、昼過ぎになってから伯爵は迎えに来た。
念のために以前Aを見つけた場所に行ってみたそうだが、会えなかったと言っていた。
多少心配ではあるが、今はその方がいい。
何とかヒプノスの正体を確かめ、部隊の規模と目的を探り出した後だ。

マイヤーの指定した店は、アジトのある丘を望める、町はずれにあった。
オープンカフェになっていて、人々が思い思いに談笑している。
少佐と伯爵はあえて店の中の席に座った。
「何を飲む?」
「え?」
「奢るぜ」
ぽかんとしている伯爵を見て、少佐は伯爵が人から奢られることが初めてだと気づいた。
それどころかコーヒーを飲むことがあったかさえ疑わしい。
構わずに少佐はカウンターに行くと、自分にはコーヒーを、伯爵には紅茶を頼んだ。
伯爵は目の前に置かれたカップを、おそるおそる持ち上げ、一口すすった。
「ぁ、ありがとう。おいしいよ」そう言いながらも伯爵はぎこちなく微笑む。
少佐はコーヒーを飲むと、無意識にポケットを探り、顔をしかめる。煙草が無い。
そういえばこの世界で、煙草を吸っている人を見たことがなかった。
バーチャルなんだから、環境汚染とか肺ガンの危険性はないんだ。思いっきり吸わせてくれてもいいんじゃないか…。明らかに不機嫌な顔をした少佐を見て、伯爵にはその理由が分からず狼狽えていた。
「少佐?あの、何か僕が君を怒らせるような事を言ったかい?」
「気にするな」そう言いながらも、こんな事を説明するのは情けなく感じ、黙っていた。
その時、少佐の背後からすっと煙草を差し出す手があった。
「どうぞ」
「あ、すまん。」誰だか知らんがありがとう、と言おうと振り返った少佐は思わず言葉に詰まった。
「どうかしましたか?」呆然としている少佐に、煙草を差し出した男は怪訝そうに尋ねた。
「い、いや…、ここで煙草を吸ったらどうなるのかと…」何とか気を取り直し、少佐は平静を装った。
「大丈夫ですよ。普段通りに吸えば、ちゃんと煙草の味はしますよ。
 ところであなたはここで見かけませんね。こちらは初めてですか?
 見たところ軍人のようだが、こんな時間にここにいるということは?」
「ここに来てまだ3日目だ。
 ここには休暇をかねて見学に来ただけだ」
「なるほど。そちらの彼は?」そう言って男は伯爵の方を見た。
「俺のナビゲーターだ。
 あんたにも煙草のお礼だ。何か奢るぜ」
男はそれを聞いて、にっこり笑い、少佐の向かい側に座った。
「では、コーヒーを」
少佐が再びカウンターに向かうと、男は伯爵に向かって聞いた。
「彼はあなたを友人のように扱ってくれているんですね」
「そうですね。彼の中ではV.I.も人間も変わらないようですよ」伯爵は少し照れたようにうなずく。
やがてコーヒーを持った少佐が戻ってきた。
「まだあんたの名前を聞いてなかったな。
 おれはエーベルバッハ少佐だ。
 こっちの奴は…伯爵と呼んでいる」
(どう思われようと俺はこいつをファーストネームで呼ばんぞ)
「よろしく。私はマイヤーです」
昨日少佐と会った男と瓜二つだが、明らかにそいつとは雰囲気が違う男はそう言った。
「もっともここでは別の名前で呼ばれています。
 ──“ヒプノス”とね」

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