« 09 The realm of enchantment-4 | トップページ | 11 the double exposure-reverse side »

10 the double exposure-obverse side

mission 10 【二重の影-1】

目の奥で光が点滅する。
誰かが名前を呼んでいる。
腕にちくりとした刺激があり、Aは突然現実に呼び戻された。
「どうしてっ!!」
Aは思わず飛び起きるなり、目の前にいた白衣の男につかみかかってしまった。
「A、落ち着け!」気が付くとCがAの肩をつかみ、引き戻していた。
「ご、ごめん…」我に返って一つ呼吸を整える。
「約束の時間より早いようだけど、何かあったのかい?」
Aは体中に付いたコードを数人のスタッフにはがされるままに任せ、Cに聞いた。
「Aの言っていた電力消費の多い施設を調査していて、いくつか候補を上げたんだ。
 そのうちの一つにEとHが向かったところ、
 どうやらヒプノスの使っていた施設らしい」
「そ、それで何か手がかりがあったのか?」
こんなに早く何かが見つかるとも思っていなかったAは、期待をこめて聞いた。
「これから報告を聞きに行くところだよ。
 君も聞きたいだろうと思って呼び戻してもらったんだ」
Cはそう言いながら、Aに上着を渡し、ドアに向かった。
Aは上着を受け取ると、Cに遅れまいと足を踏み出したが、なぜか体が前のめりになり、よろけてしまった。
慌てて駆け寄ったCに支えられなければ、倒れていたろう。
「大丈夫かい?戻りたては感覚が戻るのに時間がかかるって聞いていたのに、
 忘れてたよ。ごめん。ゆっくり歩こう」
「大丈夫、すまないけど肩を貸してくれ」
一刻も早く経過を聞きたい。その思いでCの肩を借り、Aは必死に足を繰り出す。

目的地はAのいた研究施設から車で40分の所だという。Cの運転で向かうことになった。
Aの友人の情報分析室のスタッフ、カーンも同行している。
車窓からはのどかな田園風景が続いている。
車の中でAは、電力消費の多いまたは大容量の発電機を購入した施設、団体のリストを見ていた。
多くは病院だが、中には怪しげな名前の研究所や宗教団体もある。こんなにも多くの団体が、放送局並みのスタジオや、巨大なシェルターを備えているとは驚きだった。
これから向かうのは、個人の会社だ。業務内容は倉庫とその管理のはずが、膨大な電力を使っているところだ。
持ち主の記録をあたってみたが、全く記録が無かった。
「この施設はまわりに民家や農地がないので、人通りが全くないんだ。
 だからどんな人が出入りしていたか、全く情報がない」
Cは運転しながら、Aの膝の上に何枚かの写真を放り投げた。
まわりを背の高い植物が伸び放題の、荒れた感じの建物が映っている。
外壁もぼろぼろだ。これでは誰も注意をしないだろう。
「この隣の小屋が発電機だな」
後からAの肩越しに写真を見ていたカーンが言った。
なるほど、建物の後方に小さな小屋がある。
「でも結構離れてるけど何でかな」
「精密機器にはタービンの振動とか影響出るから」
そう言いながらカーンは考え込んだ
「この規模ならばここは中心的施設じゃないね」
「ああ。この施設では数人、多くても10人くらいだろう。
 Eの話だと、つい最近何かを運び出した後があったらしい。
 残っていたのは一人分の装置だけだってさ」
暫く林間の舗装の良くない道を走った後、人影が手を振っているのが見えた。Hだ。
「どうした?」車窓からCが顔を出す。
「この先を左折して暫く行くとトンネルがあって、
 直接地下の研究施設に入れるんだ」Hが説明する。
先程写真で見た建物は、ダミーだったらしい。本体は地下だったのか。
車が1台やっと通れる狭い道を行き、やがて目の前に、黒々としたトンネルが開いていた。
中に入ると、途端に道は舗装され、車は滑るように進んだ。直ぐにトンネルは行き止まりとなり、少し開けた駐車場のような所に出た。そこに小さなドアが一つあり、その前にEが立っていた。
「待っていたよ。言われたとおり、まだ機械類には一切手を触れてない」
Hについて全員が中に入っていった。中にはいくつか小部屋があり、一番奥の部屋にHはみんなを案内した。
部屋にはAが仮想世界へ入った時と、ほぼ同じ設備があった。
カーンは早速端末に向かう。カバンからCDやケーブルを出し作業を始めた。一心不乱に作業するカーンの後で、Aは見守るしかない。
その時、HがAの袖を引っ張り部屋の隅へと連れて行った。
「なんだよ」そう言えばさっきからHは何か言いたげだった。
「これを見てくれないか」
そう言ってHはAに腕時計を差し出した。ジンのクロノグラフだ。ストラップをNATO軍の物に換えてあるのは、Aには確かに見覚えがあった。
「これ…少佐の?」Aは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「やっぱり…」Hも硬い表情で頷く。
少佐が行方不明になってまだ3日だ。とするとここは直前まで使用されていたのだ。
もっと早く見つけていれば、少佐を救出できたかもしれなかったんだ。悔しさにAは唇をかみしめる。
どうしてこうもすれ違いばかりなんだろう。

「うわ!!まずい」
背後でカーンのうわずった声が聞こえ、A達は彼の背後に駆け寄った。
「どうした?」
カーンは問いかけに応えることなく、もの凄い勢いでキーボードを叩いている。モニタには洪水のように文字が流れていく。
「やられた。気をつけてたつもりだが、トラップに引っかかった!」
そう言いながらもカーンは手を休めない。
暫く弾丸のようにキーボードを叩く音だけが、部屋に響いていた。
やがてカーンがため息をつくと手を止め、コンピュータの電源を切った。
「やれるところまではやりました。
 後はこのマシンを研究室に持って帰ります。
 どこまでデータが復旧できるかは分かりません…」
Aからはカーンの顔が見えない。
無言でコードを抜き、コンピューター抱えたその肩は、心なしか震えているように思えた。
「君は十分やってくれたよ」
Aが慰めの言葉をかけながら、カーンの肩に手を置く。
すると、Aの耳には信じられないことにカーンの含み笑いが聞こえてきた。
「???」
「ふ、ふふふふふ…」ふるふると身を震わせながら、カーンは怪しい笑いを漏らしている。
「上等だ…ヒプノス! この挑戦は受けて立つ!
 何が何でもあんたの正体を暴いてやる!
 そしてどっちが上か分からしてやるぞ〜〜!!」
どうやらカーンのライバル心を刺激するようなプログラムだったらしい。
以前からオタクな奴だと思っていたが、ここまでとは…Aはため息をつくと、
カーンから離れた。これがいい方に行ってくれれば、
思いの外早く成果が上がるだろう。

情報部に帰ったAは、仲間達の集めたヒプノスと見られる者の行動記録を整理していた。
行動半径の広さと、その仕事量の多さは目を見張る。
H計画においては、上部との折衝、プログラマーチームの統括から、自ら仮想空間へダイブしてのデバックまで、ありとあらゆる作業に関わっている。これならばクーデターを起こす準備は十分できたろう。
記録を見ているうちにAはおかしな事に気が付いた。
確かに一日の行動としては矛盾はない。
しかし…???
Aはヒプノスの行動を時系列順に並べたリストをプリントアウトした。
それを持って、ミーティング用にしつらえてあるテーブルに、地図と共に向かった。
地図を広げ、ヒプノスの足跡をたどる。マーカーで印を付け、横に日付と分かる場合は時間を入れていく。
ある日にちを限定して、集中的に見ていくと、A地点からB地点に移動しているはずの時間に、仮想世界でも行動している。移動中に仮想世界へとダイブすることは、いくらヒプノスでも不可能なはずだ。複雑に絡み合った彼の行動を、少しずつ解いていくと…絡み合った糸はやがて二つの流れに分けることができた。
Aは部屋を飛び出し、情報分析室へと駆けだした。
部屋に飛び込むと、一心不乱にキーボードを叩いているカーンの肩をつかみ揺さぶった。
「お、おい?A一体どうしたんだ?」
困惑するカーンに構わず、Aは叫んだ。
「分かったんだ!
 ヒプノスはふたりいる!」

|

« 09 The realm of enchantment-4 | トップページ | 11 the double exposure-reverse side »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21723/1777841

この記事へのトラックバック一覧です: 10 the double exposure-obverse side:

» 読書の秋 [Tout le Monde se leve -counterattack of muzhik-]
ESSの小説更新。私は機械はそこまで強くないのですが この話は面白い… 最後の1行まで読まないとどうなるかわからないし 最後の1行を読んでも、次回は予想で... [続きを読む]

受信: 2004.11.12 21:39

« 09 The realm of enchantment-4 | トップページ | 11 the double exposure-reverse side »