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09 The realm of enchantment-4

mission 9 【幻惑の王国-4】

一行が林を抜けると、ぽっかりと空いた広場のような所に出た。
アジトと言っても林の木を切って組み合わせたログハウスのような小屋が一軒建っているだけだ。
まわりには数人の男達が固まってたき火を囲み、ひそひそとしゃべっていた。
クラークや少佐達が近づいて来ても、気にする様子はない。
「こんな所で貴様、何を企んでいるんだ?」
少佐は不信感を露わに、クラークに聞いた。
そんな少佐の様子に、クラークは肩をすくめていった
「少佐、あんたの任務が何か知らないが、
 もしそれがヒプノスに関わることならば、俺たちは協力できます。
 俺たちはずっとヒプノスを監視し続けているからね」
「一体何のためだ?
 お前達はこの世界に望んで来たのだろう?
 もしここが不満ならば、出て行けばいいじゃないか」
クラークはそれを聞いて、視線を逸らした。
「…こちらにも事情があるんですよ」
ここへはボランティアで来たと言ったはずだが…。
少佐はクラークに続きを促した。
「ここに来た当初は、もっと行動の自由があったし、V.I.達も数が少なく、俺たちに従順だったんですよ。
 ところが、最近は俺たちまで行動が制限されるは、V.I.もヒプノスの命令以外聞かなっちまった。
 もちろん、俺たちは上に報告しましたよ。
 しかしただ、“状況を監視し、随時報告せよ”としか言われない。
 こうなりゃヒプノスをとっつかまえて、事情を説明させようとしたが、
 多くの仲間が、ヒプノスのアジトに潜入して、行方不明になっちまった。
 おまけに今は、俺たちはレジスタンス扱いですよ」
なるほど、一応は筋が通っている。しかしクラーク達はなぜ、ここに執着するのだろう?
それが分かればもっと状況が見えてくると思うが、彼らの様子からおいそれと言うようには思えない。
「お前達は俺に何をさせたいんだ?
 まさかただで俺に協力するとは思えないんだがな」
「それについては私から説明しよう」
少佐の背後からから声がした。どこか聞いたことのある声だ。
振り向くとそこには忘れられない男が、アジトから出てくるところだった。
「マイヤー!!」
こいつが俺を何の目的か知らんが、こんな世界に閉じこめやがった。
少佐は思わずマイヤーに詰め寄った。
胸ぐらを掴み引き寄せるが、マイヤーは動じもせず、不適な笑みを浮かべている。
「どうですか、少佐。この世界を楽しんでいますか?」
「貴様っ!」
思わず殴りそうになるが、マイヤーはどうぞとばかりに顎を上げ、目を閉じる。
「殴って気が済むならどうぞ。できれば眼鏡は壊さないでください」
俺はこんなタイプは大っ嫌いだ。しかし無抵抗な者を殴る気はしない。
少佐は渋々マイヤーを解放した。
マイヤーは人差し指で眼鏡を上げ、ゆっくりと乱れた髪をかき上げた。
「少佐、あなたはやっぱり冷静な人だ。
 そんなあなただからこそ、お願いしたいことがあります」
そして…とマイヤーは少佐の方に手をかけ、耳元でそっと囁いた。
「あなたは私の頼み事を断れない。
 大丈夫、ちゃんともとの世界には帰して差し上げますよ。」
耳にマイヤーの息がかかる。少佐の背筋に悪寒が走った。
少佐は肩にかけられたマイヤーの手を、乱暴に振り払った。
いまここで口を開くと、罵倒しか出てこないだろう。
ぐっとこらえて、マイヤーを睨みつける。
マイヤーは、そんな少佐を面白そうに見つめている。
「さて、もう少しあなたと遊んでいたいが、そうも行きません。
 中であなたの任務について、話し合いましょう」
そう言うとマイヤーは、先に立ってアジトの中に入っていった。

建物の中は、思ったよりも広かった。
窓は殆どがふさがれていたが、天窓がしつらえており、明るい光が差し込んでいる。
中央には木製の広いテーブルがあり、地図や書類が雑然と広げられていた。
このアジトにいる男達は軍服や作業服のような出で立ちだったが、マイヤーは少佐を迎えに着た時のように、地味なスーツを着ている。彼はテーブルの奥の席に着くと、少佐にも座るよう促した。
「あなたには驚きです、少佐。その順応力は目を見張りますよ。
 たいていはこの世界に来ると、“仮想世界酔い”で、数日は身動きが取れなくなる。
 しかしあなたは直ぐに、現実世界と何ら変わらない行動ができた。
 正直こんなに早くお会いできるとは、思いませんでした」
テーブルに肩肘を付き、マイヤーはリラックスした様子で言った。
のんびりした口調がよけい少佐の癪に障る。
「御託はいい。貴様は最初から、俺を騙してここに送り込むつもりだったのか?
 情報部も騙されたのか、情報部もぐるなのか、教えてもらおう」
「あなたがここに来ることになっていたのは変わりません。
 情報部の目的と私の目的は、そう違いがありませんよ。
 ただ任務のついでに私に協力をして欲しいだけです」そう言ってマイヤーはにっこりと笑った。
その笑顔がよけいに嘘くさい。
しかし弱みを握られている限り、話を聞くしかない。
「何が望みだ」
「情報です」
「それだけか?」色々な可能性を考えていた少佐は、拍子抜けしてしまった。
「そう。まずはそこからです。
 ね、あなたの任務に何ら支障がないでしょう?
 あなたならヒプノスは気に入るでしょう」
「その言い方からすると、お前はヒプノスと接触する方法があるのか?
 それならば、このレジスタンスのメンバーを使えばいいじゃないか」
少佐の言葉にマイヤーは肩をすくめた。
「彼らはこの世界を、自分のいいようにしたいだけです。
 そんな奴らを、ヒプノスに会わせるわけにいきませんよ」
「確かに…」あいつらは荒っぽいことには使えても、腹芸はできまい。
少佐の納得した表情をみて、マイヤーは先を続けた。
「私はあなたに、ヒプノスの行動を知らせて欲しいだけです
 そして…彼の暴走を止める方法を考えたい。
 あなたの任務と唯一違うことは、ただ一つです。
 …彼を決して傷つけないでください」
今までの斜に構えたような態度は一変し、マイヤーは真剣な面もちで少佐に言った。
「おまえ?ヒプノスの何なんだ?」
「ヒプノスに会えば分かりますよ」そう言うマイヤーの表情からは何も読めない。
情報を小出しされるのに、いい加減辟易しているのだが、どうしようもないようだ。
「分かった。じゃあヒプノスに会う手はずはどうする?」
「嬉しいですね、話が早くて助かります」
さっきまでの真剣さがまた、うさんくさい微笑みに変わる。
マイヤーは手近にある紙を破り、何かを書き付けて少佐に渡した。
「この店にいれば、あなたならきっとスカウトされますよ」
「スカウト?」
「ヒプノスは傭兵を集めています。
 私が紹介すれば、警戒される。誰も声をかけなかったら考えますが
 まずは誘いに乗ってください」
そう言ったあと、マイヤーは少佐が何か言いたげなのに気づいた。
「どうしたんです?」
「いや…ちょっと聞きたいんだが…
 V.I.を連れて行っても構わないか?」
去り際の伯爵の表情が、脳裏から離れない。
マイヤーはいかにも面白そうな顔で、少佐を見つめた。
少佐は自分が赤面しているのではないか、心配になった。
「一応奴はナビゲーターだ。
 置いておく訳にはいかないだろう…」と、もごもごと歯切れの悪い言い訳をしてみる。
「構いませんよ。むしろその方がヒプノスの気に入りますよ」
そう言いながらマイヤーの肩が小刻みに震えている。笑いをこらえている様子だ。
「分かった」マイヤーの態度にむっとしながらも、ひとまず安心した。
「では、今日はこれでお帰りください」
そう言うとマイヤーは先に立って歩き、ドアを開けて少佐に出るように促した。
まだマイヤーには聞きたいことがあったが、彼の態度には物を言わせないものがあった。
仕方なく少佐は外に出た。もと来た道を引き返そうとすると、背後からマイヤーの声がした。
「少佐…アドバイスしておきますが、V.I.は子供です。
 嘘を付かせるより、騙しておいた方がいいですよ」
少佐はその言葉を無視して、もの凄い勢いで歩いていった。
くそ…俺としたことが、いい恥さらしだぜ。
こうなったら意地でも伯爵には役に立ってもらうぞ。
すっかり責任転化な事を考えながら、少佐は部屋に戻った。


少佐が部屋に付くと、くらい部屋の中、伯爵がベッドに腰掛けて待っていた。
「電気ぐらいつけろ」そう言って電気をつけると、伯爵は初めて少佐に気づいたようだ。
ほっとしたような顔をする。なんだか訳もなく罪悪感にかられる顔だ。
「明日行きたいところがある。案内してくれ」
そう言いながら、マイヤーに渡されたメモを見せる。
伯爵はだまってうなずいた。
「そう言えば、少佐…今日少佐と別れてから、少佐の知り合いだって人に会ったよ。
 何だか少佐に連絡を取りたがってたけど、
 話の途中で強制帰還されたみたいで、詳しい話はできなかったんだ。
 今度彼と出会った場所に行ってみたら、また会えるかな?」
「そいつの特徴を話してみろ」
伯爵の説明を聞いて、少佐には相手が誰だか直ぐ分かった。Aだ。
しかしなんてタイミングが悪いんだ。
これからヒプノスに接触しようとしている時だ。不安要素は取り入れたくない。
奴には色々調べてもらいたいこともあるが…今はだめだ。
少佐はため息を一つつくと、伯爵に言った。
「伯爵、今度そいつに会ったら、伝えてくれ。
 “俺は会えない”と。」

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