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07 The search for Major Eberbach-3

mission 7 【探査-3】

Aは病院の様な一室で、体中をコードに繋がれながら、横たわっていた。
服の中にむりやりコードを押し込めている。これならいっそ脱いでいた方がいいんじゃないかと思い、医師とおぼしき人にその疑問をぶつけてみた。
「あなたは今回が初めてのダイブだと聞きました。
 慣れない人は、自分が最後にした格好で、向こうに出るんです。」
「つまり…裸で?」
「そうなりたくはないでしょう?」
「はあ…」
「分かっていると思いますが、何事も意識しすぎないように。
 平常心ですよ」
「いままでに何か失敗をした例があるんですか?」
何度も念を押されるので、Aはだんだん不安になってきた。
「いえ、失敗というわけではありませんが…」と、白衣の男は言い淀んだ。
「その…ちょっとした趣味が出てしまったんでしょうね。
 あちらに現れた時に、ちょっと変わった格好をなさっていた例が…」
趣味の変わった格好?…Aは頭を抱えた。
「大丈夫ですよ、それ以来接触ポイントには予備の着替えと装備一式を常に置いておく様になりました」
「ええ…」何が大丈夫かは分からないが、深くは追求するまい。
Aはため息をつくと目を閉じて力を抜いた。
先程投入された安定剤が効いてきたか、ふわふわしたような気持ちだ。
ゴーグルを被せられ、光の点滅を見ているうちに、だんだんと意識が遠のいていった。


目が覚めた時、Aはホテルのような一室にいた。のろのろと起きあがる。大丈夫だ、普通に動ける。
立ち上がるとまずバスルームに行き、自分がおかしな格好をしていないことを確かめる。
今のところ何ら変わったことはない様だ。
部屋の中のテーブルには、制服(念のためにと用意されていた)の他に、携帯電話とPDAが1台置いてあった。起動させると中には「シティガイド——仮想世界の歩き方」というマニュアルが入っていた。
このPDAは 端末として簡易特異点の機能をつけたと説明されている。まだ実験段階で、充分な検証が成されていない。できる限り使わないようにと言われている。(そこまで言われると使いたくても使えないだろう、普通…)Aはため息をつくとPDAと携帯をポケットに入れた。
街の地図は大体頭に入れてある。表向きの任務として、このシティの点検と警備要因の民間人として派遣されていることになっているらしい。ひとまずはシティ内の作戦本部へ出頭するよう指示された。
作戦本部とは名ばかり、表通りにあるレストランにAは入っていった。

レストランの中は少人数ながらも、人間達が数人ひとつのテーブルに集まっていた。
一人がAの姿を認め、近寄ってきた。
AはPDAを取り出し、その男に渡した。その間二人の間には一言の会話もない。
起動された画面に男はパスワードを入れると、任命書というタイトルの書類が表示された。
そこで初めて相手の男は緊張を解き、笑顔で片手を差し出した。
「結構。よろしく…A…さん?」
部内では気にしたことはなかったが、改めて外側の人に自己紹介をするとやはり違和感がある。
そういえばボーナムさんは、何も気にせず僕のことをAさんと呼んでくれてるけど、
それはイギリス人だからかな。(彼は僕をミスター・アーと呼ぶ。ミスター・エーでなく)
「もしよろしければ、ここではアレクシスと呼んでください」そう言いながらAも握手に応えた。
Aはこんな時のために、いくつかAで始まる名前を常に考えてある。
(ギリシャ語で「救助者」の意味だ。この名前の通りの役割ができるといいんだけど…)
「それではよろしく、アレクシスさん。
 私はヴァルターです。この基地の統括兼エンジニアです」
「失礼ですが、軍人ではないのですか?」
「ええ。この街中では軍関係の施設は、危険です。
 これまでにいくつかの軍関係の施設が、爆破や倒壊されてます。
 ここは民間の研究所なので、今のところは事なきを得てますが、
 ヒプノスの敵と見なされれば、どうなるか分かりません」
ヴァルターはそう言うと、神経質そうにめがねを直して続けた。
「ですから、あなたが問題を起こすと、この施設の存続そのものに
 影響が出ることを心得て、行動してください。
 いいですか、くれぐれも目立つ行動は避けてください」
そう釘をさされ、Aは黙ってうなずいた。

暫くヴァルターと打ち合わせをしたあと、
「今回は焦らずこの環境に慣れるために、少し街を歩いてみてはどうか」と言われ、
Aは店を出た。
今回は6時間という短い滞在だ。人間の流れを観察し、どこに集まるかを見よう。
既に数時間が経過してしまっている。街全体は歩いて回っても数時間で見て回れる規模だが、
怪しまれないためにも、ゆっくりと目立たぬように歩いて行かねばならない。
そこでAは気がついた。街を歩く人々は真っ直ぐ前を向き、わき目もふらずに歩いている。
公園のベンチに座る老人やカップルも、視線を真っ直ぐにしたまま微動だにしない。
まさにそこの風景に必要だからと配置された、“住人を演じて”いるようだ。
整然とした世界に、時たま異質な動きを目にする。流れに逆らうような動きをしている者は本物の人間だろう。
自分もこの世界ではこのような異質な動きをしているのかと、改めて心配になる。
ただ歩いているだけでも“私は人間です”と言う看板を背負っているようなものだ。
———???
その時Aは、自分の足取りが真っ直ぐでないことに気づいた。
地面の感覚がない。ここまで必死だったから気がついていなかったのか、
自分の意識と体の動きの微妙なずれに、ついに体が悲鳴を上げ始めた。
一度気づいてしまうと、まるで水の中を歩くような感覚は、大きくなるばかりだった。
焦点も合わなくなってきている。まわりの風景が、時折ノイズの入ったTV画面のように見える。
ついにAは一歩も歩けなくなり、その場にうずくまってしまった。
ここは意識の世界のはずなのに、ここで意識を失ったら一体どうなるんだろう…うずくまりながらもそんなことがぼんやりと頭に浮かぶ。いつまで経っても意識は失うことができない…いっそ気絶できれば楽になるのに…

「大丈夫ですか?」聞き覚えのある声が頭上でした。
Aは誰かに抱きかかえられ、運ばれていた。
それも少しの間で、直ぐに固いところに寝かされた。
どうやら歩道沿いにある、ベンチのひとつに運ばれたらしい。
「この世界は初めてのようですね。大丈夫。
 “仮想世界酔い”はたいがいの人がなるんですよ。
 少し落ち着けば、感覚は戻ってきますよ」
柔らかな口調と、額に置かれた冷たい手の感触が心地いい。
しかしこの声はどこかで………?
うっすらと目を開けたAの視界に、金髪の巻き毛が飛び込んできた。
「は、伯爵!!!!!!!!!!!!!×○★#※♯♭」
パニックを起こし起きあがろうとしたが、再び襲ってきた目眩に、再び倒れ込む。
頭を打ち付けるかと思ったが、思わぬ柔らかい感触に驚く。
これは、もしや…膝枕?
思えばさっき運ばれていた姿勢を考えると、あれは「お姫様だっこ」じゃなかったか?
Aはこのまま意識を失うことを切に願った。

「私を“伯爵”と呼ぶってことは、君は私を知っているのかい?」
羞恥と目眩で死にそうになっていたAは、ここではたと我に返った。
伯爵ならば、こんな言い方はしない。
再び目を開けると、目の前にあるのはやはり伯爵の顔だった。しかしあの伯爵とは違う。
「大丈夫かい?、急に起きあがらない方がいい。ゆっくり、そう」
Aは伯爵(?)に背中を支えられながら、ゆっくりと起きあがった。
「落ち着いた?」
伯爵は辛抱強く、Aの回復を待ってくれている。そしてAが聞いていることを確かめながら、ゆっくりと言った。
「この姿に驚くところを見ると、君は私のオリジナルを知っているのかい?」
「うん。オリジナルって…そうか君は、V.I.なのか?」
ここに来てやっと思い至ったとは、我ながら情けない。
「そうだよ。今僕はある人物を、この世界でサポートしている」
「エーベルバッハ少佐?」
「ああ、やっぱり、君は彼のお友達かい?」
Aは再び目眩に襲われるかと思った。どこをどうしたら、僕があの少佐とお友達になれるんだ?
この世界がまだ実験段階であるというのを、今さらだが痛感した。
しかし、こうしてのんびりしているわけも行かない。少佐を捜し出すという目的は、思わぬ偶然で叶いそうだ。
「急いで少佐と連絡を取りたいんだ!彼は今どこにいるのか教えてくれ」
「それなら一緒に来るかい?僕は今から彼の所へ戻るところだから…」
伯爵の言葉が終わりきらないうちに、目の奥にむずかゆい感覚がした。
やがて視界いっぱいに光の明滅が始まった。
帰還シグナル?誰かがAを呼び戻そうとしている。まだ予定の時間には早すぎるはずだ。
早く伯爵に少佐の居場所を聞かなくては。
伯爵が何かを言っているが、厚いガラスを通しているようにゆがんで見える。
だんだんと光が遠くなる。
————やがて暗闇が訪れた。

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[エロイカ関連] ESSの小説が更新されています!!うわーい♪ 個人的な趣味に走りまくってます、最近のこのブログ。。 少佐は相変わらず…そしてAくんは... [続きを読む]

受信: 2004.10.05 15:02

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