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02 project inception


mission 2【始動】


鳥の声?
少佐が目を覚ましたのは、森の中だった。
日差しの加減からすると午後三時といったとこだろう。なぜ俺はこんな所に?
「大丈夫かい?」
男が自分に向かってかがみ込んでいる。逆光で顔がよく見えない…しかし…
この髪型には、嫌な予感が…。
「少佐?」
「お、お前は!!!」
差し出される手を振り払い、少佐は思わず木の陰に隠れた。
「な、何しに来た!」
「ひどいな、君のリクエストに応えて、この姿でやってきているのに」
「リクエスト?」その時、少佐のにはあの部長のにやにや笑いの意味が分かった。
会えば解るとはこう言うことか。
「おまえ…ナビゲーターか?」
「そう。私は君の知っている“彼”ではないよ。私はプログラムされた人工知能—V.I.(ヴァーチャル・アイデンティティ)だ」
よくよく見れば顔は確かに「あいつ」だが、俺を見る目つきが違う。あいつが俺を見る目はもっとなれなれしく、いやらしい目つきだ。こいつは違う。
そうと解ればこれはただのナビゲーターとして認識してやる。少佐は心の中で決意した。たしかこの場所は、部長の部屋で見たモニターの場所だ。ここで動揺している姿を、今部長が見ているとも限らない。俺はあくまで冷静に、任務を遂行するぞ。
「落ち着いたかい?」
「ああ。」
「じゃあ説明を始めよう。ここが仮想現実空間だと言うことは解っているね?
 君の本体は今、実験室の中にいる。君はこの世界では単なるデータでしかない。」
「ああ。しかし、こんなリアルだとは思わなかった。」
少佐は手のひらを太陽にかざしてみた。暖かい。そしてかすかに吹く風の感覚もある。
「話を続けるよ。この世界でも人間は人間の力以上の事は出来ない。空は飛べないし、水の中での呼吸もできない。全く現実と同じだ。さらに、この世界で肉体に損傷をうけると、なぜか本体の方も同じ症状になる。例えば手を失えば、現実の君の手も動かなくなる。へたをすると壊死してしまった例もある。」
「なるほど…と、いうことはここで死ぬと…」
「そう。現実の君の活動も停止する。これは何度実験しても避けられなかった。
 人間がここまで精神に肉体が支配されているとは、不思議だね」
伯爵ならばこんな事は言わない。少佐は改めて目の前にいる「それ」がV.I.なんだという実感がわいてきた。
「ああ。こいつはゲームなんかじゃないってことだな。リセットは効かない。
 とすると、ここから抜け出すのは、どうするんだ?」
「ここから抜け出すには、接触ポイントに行く必要がある。君が今立っている木の下がそうだ」
そういいながら伯爵は地図を取り出してそこに描かれた3つの点を示した。
「ここが現在地。帰還ポイントでは最大だ。ここから半径10メートル以内ならば、
 現実世界へ戻ることが出来る。あとのひとつは、ここから5キロ離れた町の中にある。
 そして…あとひとつは…必要なら君が探し出さなきゃならないんだろうな」
地図に描かれた三つ目の点を示しながら、少佐は聞いた。
「探し出すって事は、こいつは移動しているんだな。それを探すのがおれの任務なのか?」
「そうだ。この世界の創造主--暗号名を“ヒプノス”という男が、部下の数名とともに
 接触ポイントごと姿を消した。」
ヒプノス…ギリシャ神話の眠りの神の名前だ。「催眠術」の語源でもある。ロマンチストのにおいを感じて、少佐は身震いをした。
「で、そいつは姿をくらまして、何をしようとしているんだ」
「それはわからない。しかしあるはずの場所がなくなったり、突然街ができたりしたよ。ヒプノス捜索のため派遣されてきた、部隊一個小隊までが消失した。発見された時には全員極度のストレス状態で、記憶もなかった」
「おい、なのに俺はひとりでそいつを捜せと?」
「そうだ。」
「誰だか知らんが、ずいぶんと俺を過大評価してくれるじゃないか。」
しかしデータが少なすぎる。少佐は準備に必要な装備、資料について頭をめぐらせた。
「とにかく、一度俺を元の世界に戻してくれ。それだけのやつを相手にするとなると、色々調べたいことがある」
「それは無理なんじゃないか?」
「え?」まるで天気の話のように何気なく話す伯爵に、少佐に言葉を失った。
「“戻してくれ”って君は言ったよね。それって帰還コードを知らないって事だろ」
「帰還コード??」
「ここから出るには、向こうから呼び出してもらうか、覚醒するための暗示をあらかじめ与えられているから、決められた暗号を言うんだ。音声認識システムだ」
「俺は暗号なんぞ聞いて無いぞ」
「じゃあ、呼び出してくれるのを待つしかないね」
伯爵の顔をしたナビゲーターは、にっこりと笑った。
「おい…」たしかほんの10分と言っていたな、あのマイヤーとか言う男は。
「大丈夫、任務が終わればすぐに戻れるよ、向こうからは強制帰還信号を送ることができるからね。」そう言ってナビゲーターは何事もなかったように、説明を続けた。
こうなると少佐には選択肢がない。しかし…。
「おい…ひとつだけ貴様に聞きたいことがある」
そういうと少佐は、無邪気にふりむく伯爵の胸ぐらをつかみ引き寄せた。
「お前は…一体誰の見方だ?」
「な、何を?」
「お前はV.I.だろ?ということはヒプノスはお前の創造主だ。
 俺に味方すると言うことは、それに逆らうことになるんじゃないか?」
伯爵は少佐の手を引き剥がそうと、必死にもがくが少佐はびくともしない。
「ま、待ってくれ私はただ、君を補佐しろと言う命令しか受けてないんだ。
 君たちと違って、親を慕う人間の感情に支配されているとは、考えないでくれよ」
どのみちこんな事で、話すやつはいないだろう。少佐はあきらめて手を離した。
伯爵はのどを押さえ、苦しそうに息をしている。こいつは本当に苦しんでいるんだろうか?
くそっ、全くわからないことだらけだぜ。
少佐は今、この世界で初めて自分以外の人間(?)に触れた。伯爵本人をよく覚えていない(むしろ忘れたい)せいで差は全くわからないが、この感触はまさしく「人間」そのものだ。髪の毛の質感や、引き寄せた時に感じた相手の体温から息づかいまで。
「おい、一体V.I.と人間は見分けがつくのか?」
「人間はこの世界に来る時に、首か肩、もしくは手首にバーコードをつける決まりだ。」
少佐は自分の体を探ってみた。少なくとも自分から見える場所には無い。…とすると
「おい…」
「なんだい?」
「お…俺の見えないところにバーコードはあるか…見て…くれ」思わず声がうわずる。
「いいよ」
伯爵はまったく少佐の様子に気づかずに、少佐のシャツをひっぱりのぞき込んだ。
しっかりしろ…こいつは「あいつ」ではない。総毛立ちそうになるのを必死に押さえて待った。
伯爵といえば、まるで機械の点検でもするように、少佐の周辺を回っては、あちこちを点検する。
「無いみたいだね。もっとも私の見ていない部分は、いくつか残っているけど…」
「もういい!」
少佐は伯爵からできるだけ離れて、あわてて身なりを整えた。
「俺にバーコードがないって事は、どうなるんだ」
「君はV.I.と見なされるだろうね。だれもあの鉄のクラウスだとは思わない。
 この状況は君にとって有利かもしれないね。」
「くそ、なにもかも計算ずくってか?」
「その代わり、生命の安全基準は人間より低い。十分に気をつけてくれよ」
部長…帰ったら覚えてろよ…。

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